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エピソード5.x(16)

(おことわり:この文章は1ファンの手によるファン小説であり、実際のゲームやゲーム会社とは 一切関係ありません。)



ガン!

「ぐっ。」
リコは背後に漂う殺気を感じ取り、振り向きざまに右の手で繰り出された拳を受け止めた。

「キング! 前は我々を殺害した者の正体を知った後も、我々の仇を取らず……。」
その口ぶり、その姿にリコは見覚えがあった。かつて行動を共にしていた彼ら。
「貴様、もしや………。」

スザーンの手が引かれると同時に、その手から死神の鎌が振り下ろされる。 リコは横に飛び退(の)いた。
「この世に甦った時に身に付けた。この世を神の世界に変えるために。」

鎌が再び襲い掛かってきた。
「それに、我々のキングは別にいる!」

はっし
リコは鎌を素手で止めた。力勝負なら負けない。以前もそうやって彼らを 打ちのめしたのだ。

ギリギリギリ……
おかしい、リコが異変に気づくまでにさほどの時間がかからなかった。鎌が少しずつ 自分に近づいてくる。……あきらかに力負けしているのだ。
死神の鎌が――首に近づいてくる。

――動脈まで2センチ。

こつん!
鎌の刃がリコの忌まわしい記憶と歴史の染み付いた首の装飾に当り、 不似合いなくらい軽い音を立てる。
もう、もたない――。

コンコン

「キング。話があるのですが……。」
扉がノックされ、バトラーとアマゾネスが入ってきた。

「てめぇら! 何してるっ!」
情勢が変わった――。リコは鎌を弾き飛ばした。すばやく――とはお世辞にも言えない動きだが。
「お前らがかなう相手じゃない! 逃げろっ」
「ちっきしょう。これが黙っていられるか!」
バトラーとアマゾネスが銃を撃つ。

バトラーの銃が、ハインリヒとレオナルドを捉えた。
パチパチパチ……配線が火花を散らす音がする。

どっかん
レオナルドが吹き飛んだ。
濛々(もうもう)たる煙の中、パラパラと破片が降ってくる。

バキ…バキ…バキバキ……。
「キング?」
煙が晴れると、リコはバルガスの首を捉えていた。軸が折れる鈍い音とともに、 バルガスの首に閃光が走る。
ガチャ
バルガス――、いやバルガスのアンドロイドは煙を吹きながら両膝をつき、 そのまま前に倒れた。

「なるほど……。力を奪われたとはいえ、やはり貴様は生まれながらの“キング”か。」

―――ならば―――

「ぐぐぐ……。ぬぅ……。……スザーン、貴様、その力……お前もか。」
鎌越しにスザーンが笑う。死神はリコの身体を壁際に押し付け、その首を刈ろうとする。
「そうさ。俺はキングに言われたよ。ここにいる“ニセモノ”を消せとね。」
鎌の刃は確実にリコの頚動脈に近づいている。
「どういうことだ?」
刃が首筋に触れた。あともう少し……。
「こういうことだ。」

ベキッ。
骨の折れる鈍い音の後、刃に押し込まれ、リコの首筋の皮がくぼむ。





わーっ!!
蜂の巣をつついたような喧騒が、総統府(――とりあえずの姿ではあったが)を包み込む。

「何の騒ぎだ。」
「た、大変です。バトラーらめが!!」
「……バトラー? 彼らは恩赦を受けてからというもの、皆、鳴りを潜めていたのではないのか?」
「そ、そのバトラーどもが、いきなりキスレブに反旗を翻しました!! 総統府は奴らでいっぱいです。」
怒号と嬌声の中、“総統を倒せ”というスローガンが響き渡る。

“アヴェを許すな”
“兄弟たちの仇を取れ”
“キスレブの力を奴らに見せてやれ”

何を叫んでいるか聞き取れるくらいに、足音と共に確実に叫び声が近づいてくる。
「アヴェに対して反感を持つ者を先頭にして、一気に総統府になだれ込みました。 反乱分子の中には、バトリングで名を馳せたバトラーも多く含まれ、 総統府の兵士だけではとても防ぎきれません。早く、早くお逃げください。」
「そうか……。」

ジークムントは、窓に近づき、眼下を見下ろした。
総統府を守るキスレブの兵士と、バトラーを先頭とした反乱分子がもみ合っている。 キスレブの兵士とバトラーと市民。あたりには、煙と血と炎、そして人が倒れている。

「……もう、走り出した歯車を止めることは誰にも出来ぬのか。」
「総統。」
落ち着いた声で、ジークムントは言う。
「うむ……。やはり私はここに居るべきであろう。……反乱分子の首謀者は誰か? 分かっているのか?」
「はい。……それは……。」

“俺だ”
執務室の扉が、ドカンと、打ち破られた。

ぐう……うう……
報告者はなだれ込んだバトラー達に組み伏せられ、取り押さえられている。
ジークムントは特に驚いた様子も見せず、ただ、“反乱の首謀者”を見た。既に 見知っている者。以前一度、自分の命を狙った――。

「……リコ。やはり貴様だったのか。」
「バトリングの名を借りた俺の“処刑儀式”の借りを返しに来た。……“あの世”からな。貴様こそ、処刑されるべき存在。人々を踏みにじり、人々の真の望みを叶えようとしない存在。」リコが一歩踏み出した。
ジークムントの眉がピクリと動く。
「人々の真の望み? 意味すらない殺し合いがか? もはやキスレブ、アヴェ双方ともに恨みは存在しない。あるのは、理由のない殺し合いだけ。お前はそれが“望み”だというのか?」

くっくっくっ……クックックックックッ!
リコは肩を揺らして笑った。
「……そうだ。ヒトは常に暴力を欲する。ここの人々がバトリングに熱狂したのは 何故だ? 俺の“処刑”にあれだけの人々が集まったのは何のためだ? 力こそ ヒトの望み。相手を叩き潰すことこそがな。それが歓喜と熱狂を生み出す。それこそが ヒトの宿命だ。……そして、ヒトは滅んでいく……。」
「何と…。」

さらに、リコはずいっとジークムントに近づいた。
「さて、時間だ。せめてもの情けだ、一思いに潰してやろう……あの世で貴様の妻と “息子”が待っている。」

リコが右手に持っていた斧を振り上げたとき、
待て!!
リコの顔をかすめるように、銃弾が飛んだ。

「貴様は……なるほど、生きていたのか。」斧を持つリコが不適な笑みを浮かべた。
「キングが……2人?」戸惑うバトラー達。どちらのリコに引き連れられたバトラー達も 息を呑んでいる。
後から現れたリコは、だらんと下がった腕からも、全身についた傷からも血を流し、 荒げた呼吸の中で言った。
「……ああ、生きていたさ。お前が生きている限り、俺は死なない。お前の息の根を 止めるまではな。」
リコは振り上げた斧を、振り下ろした。

ガシリ!

「ふふふ……これは面白い。では、どちらが“本物”か勝負をするか。」
リコの斧が床に突き刺さる。
「素手ではないと勝負にならぬからな。」
「……ぬぬぬ。」
「もっとも、その身体の様子では素手でも勝負になりようがないがな。」

うおーーーっ!
傷だらけのリコが先に動いた。
「遅い、遅すぎる。」
ガシリ、ガシリと重く鈍い音が響く。リコが殴りつける。
もう一方のリコは、ただ、薄笑みを浮かべて笑っているだけ。微動だにもしない。

ズシン
そのリコの身体が頭から床に投げつけられた。リコの得意技だ。

……くっくっく……結局、貴様はその程度のものか。

はぁっはぁっはぁっ
傷だらけのリコは肩で息をしている。

“逃げろ”
「何!」
「ジークムント、貴様は逃げろ。バトラー達が行き先を案内する。」
……スザーンも、かろうじて倒したに過ぎぬな……
倒されたリコが、ゆっくりと上半身を起こした。

「お前はどうするのだ。」
……その右腕、折れているのであろう……
上半身を起こしたリコは、ゆっくりゆっくりと立ち上がる。

「俺は、この鼻持ちなら無い野郎と勝負する。」
リコはふっと笑った。
「一度は命を狙ったこの俺が助けるとはな。運命とは皮肉なものだ――。」
……今生の別れは、済んだのか……
「行けっ! 貴様でなければ、この国は救えぬ!」

「さらばだ。」
ジークムントはバトラーと共に部屋から立ち去った。


「言わなくて良かったのか?」
倒されたリコはゆっくり構えを取る。
「何をだ?」
「貴様が奴の……、もうそれを伝える機会は無いぞ。貴様はここで終わるのだからな。」
傷だらけのリコも構えを取る。
「俺は伝える言葉を持たぬ。」

二人のリコがぶつかりあった。
ベキッ
ぐぶっ!

リコのすでに折れている腕の関節がくだけた。もう一人のリコに関節をきめられ、 苦渋の表情を浮かべるリコ。
「ヒトは脆い。腕が一本砕けただけで、痛みのため普通の身体の様には動けない。」
そのままリコの身体を壁に投げつけ、再びアンドロイドのリコが飛び掛る―――

「だが、俺は違う。仮に腕一本無くなったといても、何の問題もない。」
リコの無情の拳が、傷だらけのリコに激しく降り注いだ―――

「ヒトは脆い。亜人である貴様もそれは変わらぬ。」
風に打ち付けられる旗のように――ただ、なす術も無く――その身体は――