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エピソード5.x(15)

(おことわり:この文章は1ファンの手によるファン小説であり、実際のゲームやゲーム会社とは 一切関係ありません。)



―――エルル―――

かつて、ソラリスによって滅ぼされた国。
暮らす者の生まれ持つ能力の高さゆえ、ソラリスに疎んじられ、恐れられ、 そして滅ぼされた。住民のかなりの数が捕らえられて、それから―――。

テラフォーム後に生き残った人がかつての故郷に集まり、村が出来、やがて町になり、 今では都市と呼べるまでになった。

「……ここ一ヶ月における、エルル住民同士の衝突は明らかに増加しております。 先週は、ついに衝突による死傷者が3桁を越えました。」
ドミニアは落ち着いた声で報告書を読み上げる。
「報告されている事象だけでも、日に平均2、3件は住民同士の衝突が起きている計算に なります。報告されていない『いざこざ』レベルの事象を含めると、日に10数件は起き ていると思われます。エルル人とソラリス人の間にある溝は、一向に埋まる気配を見せず ……。」

ギィィ。
椅子に座り、腕を組んでドミニアの報告をじっと聞いていたラムサスが、手を机の上にお き身体を少し前のめりにした。

「ドミニア。」
「はい。」
「お前はどう思うか?」
ラムサスが一呼吸置いた。

「……元ソラリス人と元エルル人、共存はできぬのか。共に暮らすことはかなわぬのか? 」
ドミニアの表情に暗い影がよぎった。だが、それはほんの一瞬。ラムサスの瞳をじっと見 返したドミニアの眼は、やや潤んでいた。
「エルル人には、故国を滅ぼしたソラリス人に対して深い恨みの感情が根強く残っており ます。しかし、祖国を滅ぼされた悲しみの深さは、エルル人、ソラリス人、どちらも同じ のはずです。それを両者が理解をすれば、共存する道も見つけられると思われます。」

「祖国を滅ぼされた……か。」
ラムサスはどちらの時も居合わせていた。紅い閃光――人々は苦しむ間もなく目の前で滅 んでいった。もちろん悲しみなどは無い。元々彼には母も父もない――生け贄とした少年 には両親がいたのだが、ラムサスには実感無き記憶しか残らなかった。記憶は吸収出来て も、少年の想い出までは自分の物にならなかったのだ。それゆえに、彼には人の痛みが理 解できなかった。だが…。

「ドミニア。もう下がってよい。」
「はい。」



ドミニアが去った後、ラムサスは一人頬に手をあてた。

ヒュウガ……あれは効いたぞ。

『甘ったれたことを言うんじゃないっ!!』
『塵……あなたはそういって自分を卑しめていればいいかもしれない。でも、彼女達は どうするんです!? あなたを慕って集った彼女達も塵なんですか? 寄る辺のなかった 彼女たちを護った理由。それは健全なものではなかったのかもしれない。でもね、 それでも彼女達は貴方の下を離れなかった。何故だか解りますか? あの娘達はね、 誰よりもあなたの真実の姿を知っているんですよ。だからあなたの下を離れない。 カール……。あの娘達まで塵にしちゃあいけませんよ。』

お前は俺がここに落ち着いた後も、何度も足を運んだな。

『この世界はあなた一人のものではないのです。自分の世界に閉じこもってはいけない。 かつてのあなたはそうではなかったはずです。それまでの慣習を破って、見所のある者や 意見を貪欲に取り入れようとしていた。そうではなかったのですか?』
『貴様に何が分かる。野にいる貴様に俺の気持ちなど――。』
『野にいるからこそ見えるものもあるのです。あなたの今していることが どういうことか。』

あれは、俺が誤った道に踏み込んだ時だったな。

『まるで人を信じていないかのようなやり方はいけません。人々に不信感を 抱(いだ)かせてはけない。人は使うものではないでしょう? たしかに、あなたは 彼らにズタズタにされたかもしれない。でも、その痛みを他者に転嫁しては いけないのです。あなたが“痛み”そのものになってはいけない。それによって、 またキズつく者が出るのです。“あの時”、傷つき心を痛めたのは、決してあなただけでは なかった。あなたはそれを知らないだけだ――。』

そうだな。ヒュウガ――。

『あなたには、人を引き付け導く力があるのです。力の使い方を誤ってはいけない。 あなたを信じ、慕ってくる者達に対して、あなたはその責任を負わなくてはならない。 だから、いつまでも過去の痛みに囚われていてはいけないのです。あなたは “いま、ここにある”のだから。カール……。力を正しくお使いなさい。あなたを 信じ求める者たちのために、あなたが求める者のために。』

ヒュウガ……。俺は“今”を生きているか?







最初は、壁の落書きもカラフルで芸術的趣(おもむき)もあり、その内容も実に他愛も ない、人々の微笑みを誘うようなものであった。しかし、最近の落書きはただ乱暴に、 文字が一面に書き殴ってあるだけであり、内容も読むに耐えられないものが非常に多く なっている。まるで、ここに住む人々の心の荒(すさ)み具合を端的に示しているかの ようである。と、同時に治安も悪くなった。

「ここもずいぶん荒(すさ)んだな。」
ジェシーはエルルの街に来ていた。なんてことはない、後輩ラムサスをからかいに……で はなく、冷やかしに(どっちも同じか)来たのだ。彼は、不安定なラムサスの性格を 知っているゆえに、時々こうして様子を見に来ているのだ。ただ、生まれ持った性格の ために素直にそのことを言えないジェシーだったが。なので、ラムサスへの忠告役は もっぱらシタンとなっていた。

以前は、女子供をはじめ、大勢でにぎわっていた通りも今はガランとしている。
「ラン! アハス(止まれ)」
「ヴ、アダヴィ ダイ−アトゥナ、アクヴァ(手を挙げろ)」
○×△□(……へいへい)
ジェシーは立ち止まり、言われるままにゆっくりと両手を挙げた。

「貴様! ソラリス人だなっ! この言葉の意味が解るのは、ソラリス人だけだからな。」
「ソラリス人はみんなブチ殺せ。」
「貴様らが俺達にやったようにな。」
「やっちまえっ!」
チッ!

ジェシーもユーゲント時代に兵士としての訓練を伊達に積んではいない。相手は4人とは いえ素人だ。彼はあっという間に、しかも確実に4人を打ち倒した。
「物事の本質も分からんようなガキが、使うような代物じゃねぇんだよ。銃ってものは よぉ。」
彼はそのうちの一人から銃を取り上げた。

「おい、そこの頬傷の男。」
「んだよ。てめえも、こいつらの仲間か。」ジェシーは声のした方に振り向いた。
「いや、違う。俺たちもこいつらには辟易してたんだ。見ていて胸がすっとしたよ。 一見したところ分からないが、お前はソラリス人なんだな。」
「ソラリス人だからなんだってんだ。それが何か関係があるってぇのか?」
声をかけてきた男はすたすたと近づいてきた。

「大いにあるさ。こいつらはエルルの生き残りだ。耳を見れば分かるだろう?」
確かに、転がっている彼らの耳は、エルル人の特徴である独特の尖った形をしていた。

「だから何だってんだよ。人種なんて関係ねぇだろ。」
「俺たちソラリス系の住民は、こいつらエルル系の連中に常に脅かされている。俺たちは 心安らかに暮らしたいんだ。そのために、こいつら全て、この街から消し去りたい。 たとえ、どんな犠牲を払ってでも。」
前はこんな街じゃなかったんだが、ジェシーは密かに舌打ちをした。

「どうだ。俺たちと一緒にやってくれないか? エルル人の駆除を。」
「断る!」ジェシーは即答した。
「なにっ!」
「人種で線引きしちゃいけねぇぜ。問題なのは、中身である人の心根の方だ。てめぇは 気が付いちゃいねぇようだから言ってやるが、てめぇのやろうとしていることは、 こいつらと全く一緒だ。気に入らねぇから叩き潰す、そういうことだ。だから俺は断るぜ。」

「ふざけたことを。俺たちが、このクズ共と一緒だと言うのか。元々、俺たちは こいつらとは出来が違うんだ。劣ったラムズと選ばれし民の俺たちが同じわけが無い。 お前はソラリス人といいながら、ラムズに側に付くのか。お前も、あのラムサスとか 言う奴と同じ裏切り者だ!」

どこから出てきたのか、ジェシーの周りをわらわらと男たちが取り囲み始めた。
「裏切り者!」
聞く耳持たずってやつか…。ソラリスってやつは昔から何も変わっちゃいねえな。 ジェシーは身構えた。



「そう、協力はしないのね……。それなら、消えてもらわないといけないわね。」
離れたところに一人、女性が立っている。助けを呼ぶわけでもない。傍観者を決め込んで いた。







「親父。親父の予想通り、やっぱり来たよ。」
粉々になった残骸を見下ろすビリー。

「これが来たってことは、親父は……。」
そのビリーの瞳に、かすかだが涙が光った。
「……大丈夫だよね。親父こそ、そう簡単に死にそうもないからね。あの捻じ曲がった 根性ならさ。」

『ビリー。もし俺のニセ者がここに来たら、お前はどうやって本物かどうかを確かめる?』
『え?』
『ラケルを送り込んだタチの悪いヤツだ。ありえんことじゃねぇぜ。』
『そうだねぇ。親父がシタンさんを撃ったようにすればいいんじゃないの? 血が 流れれば人間でしょ?』

『それでもいいんだけどよ。』
『何? まだ言いたいことでもあるの?』
『買い出しに出るたびに、お前に撃たれてちゃかなわんよな。』
『ハハハ。』

『俺もお前を撃ちたくねぇからな。心臓に悪りぃや。……こうしたらどうだ? 怪しいと 思ったら銃を向けるってのは?』
『それだけじゃ、人間かどうか分かるわけがないじゃないか。』
『銃を向けられたら、普通は手を挙げるよな。』
『うん。』

『“手を挙げたらニセ者”てのはどうだ? いいアイデアだろ。』
『そのひねくれた発想、親父らしいよ。』
『いいか。どんなに本物に見えても必ず撃て。“俺”が命乞いをしてもだ。』
『………。』

『大丈夫だ。お前のひょろひょろ弾に当るほど、俺は鈍かねぇぜ。』







「やめろっ。」憲兵達が騒ぎを聞きつけ、駆けつけてきた。
「ちっ、ラムサスの飼い犬か。逃げろ。」
倒れている連中を残し、男達は逃げていった。

「おい、大丈夫か? ……と、誰かと思ったら、ジェサイアじゃないか。」
「ドミニアよ。来るなら、もう少し早めに来やがれ。手加減する余裕がねぇから、 こうなっちまったじゃねぇか。」
ジェシーは、気を失いごろごろと転がる男たちを顎で指し示した後、 乱れた髪を手ぐしで直し、服をパンパンと叩(はた)いた。

「ここも、どうかしちまったみてぇだな。最近はずっとこんな感じか?」
「ああ、一触即発だ。すぐに殺し合いにまで発展する。」
「カールはどうしてる?」
「ラムサス様はこの事態に対し、色々と手を打っている。だが全く効果が出ない。」 ドミニアは悲しげに首を振った。
「そうだろうな。みんな、頭がイカレちまっているみてぇだからな。ソラリス系も エルル系も……。きっかけは多分、些細なことだったんだろうけどな。」

動けなくなっているケガ人達が、皮肉なくらいに手際良く運ばれていく。

「ジェサイア。とりあえず、お前も連行するぞ。いいな。」
「ああ。」



「くそっ。ラムサスめ。あいつがいる限り、俺たちは奴らに怯えて生きるしかない。」
「そうよ。彼さえいなくなれば、私たちのエルル駆除に邪魔は入らないわ。」
「そうだ、まず奴を倒せ。」

うふふ……。



一方その頃
「また、ソラリスの連中の仕業か。」
運び込まれたけが人を見て誰彼と無く嘆いた。
「奴らはキチガイだ。元々ここは我らの土地だ。何故、奴らがこの国に住んでいるんだ。」

「“彼”のせいですよ。彼がソラリス人を連れてきましたからね。」

「そうだ。あのラムサスのせいだ。」
「奴は我々エルルを虐(しいた)げ、ソラリスばかり優遇する。奴さえいなければ、 こんなことにはならなかったんだ。」
「ラムサスを倒せ。奴がいなくなれば、ここはエルルだけの平和な国になる。」
「そうだ、ラムサスを倒せ。」

クックック……。