TOPへ戻る 目次へ戻る ゼノギレラ(2)

ゼノギレラ(1)



フェイは、心の優しい、美しい子です。でも、かわいがってくれたお母さん(カレン)も、 お父さん(カイン)も天国に行ってしまいました。
二度目のお母さんと、おねえさんたちは、とてもいじわるで、毎日、毎日、 フェイにひどくあたり、食事のしたくや、掃除、洗濯をさせています。

「しっかり働くのよ。」母、ミァン。
「私達は、歌や踊りのおけいこをするからね。」エリィ&エメラダ。

朝から晩までフェイは忙しく働いていました。そんなフェイの友達は、 屋根裏部屋に住むねずみさんたちと、小鳥さんたちだけでした。

……というのは、12時までの話。

12時を過ぎると……

「まぁったく、誰がこんな毎日やってやれっかよっ!!」

ぶぁっきぃーーーん!
ぐぁっしゃーーーん!
ばりばりぃっ
どっかぁーーーーん!

「お母様、あの音はいったい何でしょう?」
「のぞくのはおよし! きっと外で化け物が暴れているのよ。 外に出たら食べられてしまうわよ。ああ恐ろしい。」
「化け物は真っ赤で、とてもこの世のものとは思えないほどの 恐ろしい姿をしているらしいわ。」
「お母様、恐い。」
「大丈夫。お母さんにつかまっておいで。」

……と、母子で震えているのが日課であった。

「でも、朝になると何事も無いはどうしてなのかしら?」
「そうそう。それこそ、化け物の仕業なのよ。」

シーン!

「やっと静かになったようよ……。」



化け物の正体は言うまでもないのでパス(大笑)。



そんなある日のこと。

「若。いつまでもフラフラせずに、少しは政治に関心を持って下され。」
大臣のメイソンが説教をたれている。

「やっだよ〜。しちめんどくさいことは全部シグがやってくれるから、 俺はこれでいいんだよ。」
バルトは横向いて涼しい顔。

「いつもいつも、シグルド殿頼りでどうされますか。」
「まぁいいじゃねーか。そんなわけで、俺は出かけるぜ。じゃあな。」
こめかみに青筋立てたメイソンを部屋に残し、バルトはさっさと出ていった。

「若。どこに行かれます?」
「よ、シグ。メイソンが熱出しそーだから、看病してやってくれな。」
バルトは陽気に右手を挙げる。
「メイソン様が?」
「頭から湯気がぽっぽっぽーだ。あははっ。」

「若っ!」
シグルドが振り向いた時には、もういない。全く速い足である。



「まったく、若ときたら……。」
ぼやきながら部屋に入ると、大臣メイソンが頭を抱えていた。

「シグルド殿。若はどうすれば落ち着くのやら。何か良いアイデアはござらぬか?」
「もはや、身を固めるしか方法は残されていないのではないかと。」
「おお、シグルド殿もそう思われますか。」
シグルドは大きくうなずいた。
「ええ。しかし、えり好みの激しい若のこと。そう簡単に事が運べるとは思えませんが。」

二人とも腕組みをして、ううんと唸る。はたから見ると、かなりおかしな風景だ。

「そうだ。」
ぽん、シグルドが両手を叩いた。

「舞踏会を開きましょう。」
「シグルド殿? 舞踏会とはどういう意味でござろうか?」
「この本に出てくる、王子様の花嫁を選ぶ舞踏会のことです。」
真顔で『シンデレラ』を開いて説明するシグルドであった。

「シグルド殿……? まさか、このような本を……?」
実は、顔と性格に似合わずシグはメルヘンが好きだったりして(爆)。
「え? ええ。それよりも、国中の若い娘を招けば、若が気に入る女性も いることでしょう。」
「それはいい。では、早速準備に……。」



あるひのことです。
おしろから、ぶとうかいのしょうたいじょうがとどきました。

「まあ、エリィ、エメラダ、みてごらん。お城で舞踏会が開かれるそうよ。 国中の若い娘を招いて、その中から王子様の花嫁が選ぶのですって。」母ミァンが言った。
「わぁ、私が選ばれたらどうしましょう。この私のナイスボディに惹かれない男性は いないわ。」
「……(おばちゃん)。」
おかあさんもおねえさんも、おおさわぎです。

(ああ、舞踏会に行ってみたい。でも、着ていくドレスがないし。)



「舞踏会だってぇ? なんでそんなもんに俺が出なきゃなんねぇんだよ!」 バルトの口はとんがり帽子。
「若、そんなことを言わずに出てください。若が出てくださらないと始まるものも 始まりません。」
「舞踏会(ぶとうかい)よりも武道会(ぶどうかい)の方がよっぽどおもしれーのに。 ぶつぶつ……。」
「それはいずれ開催してあげますよ。ともかく、今は舞踏会に出てください。」
「チッ、分かったよ。シグ。」

…まさか、『毎晩武道会』の日々が来ることを、予想だにしない 城の住人たちであった。



「いいなぁ。」

しょんぼりしたフェイを元気付けるために、ねずみさんたちや小鳥さんたちが ドレスを作ってくれました。
「まあ、これあなたたちが作ってくれたの? ありがとう。」
フェイは大喜びで支度をし、出かけようとしていたお母さんたちのところに行きました。

ところが、

怒ったおねえさんたちにドレスを破られてしまったのです。
「ひどい、ひどすぎる。」
くすんくすん、フェイは泣きじゃくるだけでした。


……このままじゃ、まずいですねぇ……
……どうする、あなた……
……『彼』が表出すると面倒なことになりますから、なんとかしましょう。 『彼』をなんとかする良い機会ですしねぇ。……


どろん!!

わざとらしい煙をあたり一面に充満させて、どこからか、 オールグリーン3人組が現れた。
「あなたたちは?」
フェイの問いかけに、そろって“にっこり”と微笑むオールグリーン3人組。 その顔に張り付いた笑顔がかえってコワイ。

「私たちは、この家に代々住み着いている妖精です。(にっこり)」 『妖精』その1、シタン。
「あなたが、悲しんでいる姿を見て出てきました。(にこにこ)」 『妖精』その2、ユイ。
「舞踏会に行きたいんでしょ?(^^)」『妖精』その3、ミドリ。

――だからぁ、その微笑みがみょーにコワイって。

「さあ、顔を上げて。涙はその顔に似合いませんよ。私たちはいつもあなたを 見守っていました。さあ、舞踏会にお行きなさい。」
「でも、ドレスが……。」

妖(怪)精シタンが怪しげなつえをふると、近くのかぼちゃが馬車に、 ねずみさんが馬に、そしてフェイは素敵なドレスを着たお姫様に。 足にはみょーにでっかいガラスの靴が光っています。

「これは……。舞踏会に行ってもいいんだね。」
「ええ、どうぞ。しかし、分かっているとは思いますが、12時までには……。」
「ありがとう。行って来ま〜す。」るんるん気分のフェイを乗せて馬車は走り出した。



「本当にいいの? あれで。」
「いいんですよ(にっこり)。本人は喜んでいますから。ここで暴れられると 毎度の“片付け”が大変ですからね。よもや、あそこまで美しくなるとは 思っていませんでしたが、上手くいきそうですね。私たちが ゆっくり眠れる夜も近いですよ。」
「そうね。早くゆっくりしたいわ。」
「私、一度でいいから、朝までぐっすり寝てみたい。」
「今まですまなかったね。もうすぐですよ。」
妖しげな微笑を残して、オールグリーン3人組は消えた。



つまんねぇな、どれもこれも、まったく。

玉座に座り、頬杖(ほうづえ)をついて、横っちょを向いているバルト。 その態度をメイソンとシグルドがたしなめるが、一向に聞く耳を持とうとしない。 やっぱりだめか…関係者が内心あきらめかけた頃。

ざわっ。
場内がざわめいた。

みょーに背が高くて美しい身なりをした姫が、ドレスのすそを踏んづけながら入ってきた。 いや、一応踏まないように両の手でつまんで歩いているのだが、 なぜかつまづいてしまうのである。そんな、あまりめったに遭遇しない不器用さに、 王子バルトはうっかりひかれてしまった。

おもしろそーだな。いっちょ、からかってみるか。

バルトは玉座から立ち上がり、面白半分に姫フェイをダンスに誘ってみた。

“若が女性の手を取った”
“相手は誰だ?”
“分からん。至急、素性を調べるんだ”
“これを逃すと、次は無いかも知れん”
“急げ”
色めき立つ城の関係者。一方そんな陰謀はつゆほども知らないバルト。 舞踏会を開くこと以外、くわしいことは聞かされていなかったのだ。もちろん、 これはバルトの行く末を案じたシグルドの当然のたくらみなのだが。

おっもしれぇー、こりゃ退屈しなさそうだなと、無邪気に喜ぶバルトだった。
というのも、これでも一応バルトは王子様。ダンスは小さい頃から教えられ達者である。 それに引き換えフェイは、着慣れない裾の長いドレスに加え、ダンスもろくに 踊ったことがないのだ。力の強いバルトに振り回され、ドレスのすそにつまづき、 フェイはおっかなびっくり転ばないようにするのが精一杯。そんなダンスの姿と、 目を白黒させているフェイのあまりに可愛い表情に、すっかり魅入られてしまった バルトであった。

――おおじさまは、ひとめでひめをきにいり、ダンスにさそったのでした――。



から〜ん、から〜ん、から〜ん…。
たいへんです。12じをつげるかねが、なりはじめました。まほうがとけてしまう。
このかねのねが、なりおわるまでにかえらねばなりません。

「もう帰らないと。」
フェイはあわてて王子の手を振り解き、一目散に走り始めました。
「おい、まてっ!」
バルトも追いかけましたが、もう姿がありません。
「ん? これは?」
階段の途中には、わざとらしくキラキラ光るガラスの靴が落ちていました。



…から〜ん。
最後の鐘の音が鳴り終わった。

ボンッ!
シタンの魔法がとけてしまったようだ。
「なんで、俺がこんなふざけた格好して、馬鹿馬鹿しいマネを しなきゃなんねぇんだよっ!」
……髪の毛が赤いのと、その性格が変わったのはシタンの魔法のせいではない気もするが。
どなりながら、そこいらの樹木を手当たり次第にへし折っていく。



“うわわわぁ。ま、魔物が出たぁ!”
慌てて後を追いかけてきた、お城の使者が腰をぬかしているとは知らずに……。

あとがき:
1999年9月26日 22:57:00から書き始めて、ずっと放置していたパロディです。
続きはゼノギレラ(2)へ