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シェバト(4)




 

バーン、ドカーン。
ユイは、背後で家が吹き飛ばされるのを見た。きっと爆破したのはヒュウガだろう。おそ らくは通信設備を破壊するために。ヒュウガの本心は図りかねたが、今は急がなければな らない。



――第7補給部隊、壊滅しました――
――第5前線部隊、後退――
――第4部隊、応答ありません――

ぐぐぐ……、指令席で歯軋りをする者がいる。



「その席の座り心地はいかがですか? こうして見ている限り、あまり良さそうではない ようですねぇ……。」
「ひ、ヒュウガ・リクドウ……。」
丁寧な言い方と対照的な冷たい声に、男は飛び上がった。背筋に冷たいものが走る。今ま でヒュウガに刃を向けた者の末路は何度も見聞きしている。だからこそ、確実に仕留めるた めにあれだけの人数で闇討ちを行ったのだ。

「状況報告を!!」ヒュウガは指令席の隣に立った。



兵の一人から現在の戦況とシェバト、ソラリス軍の現状の報告を受けると、ヒュウガはチ ラリと軽蔑のまなざしを指令席に向けた。

「ほう。わたしがいない間に、なかなか凄まじい状況に追い込まれていますねぇ。前線部 隊が孤立…前線を下げざるを得ない状況。弾丸・兵器・ギアなどを後方とソラリス本国か ら移送中。それまでに、消耗しきっている前線が持ちますかねぇ。」

――第12搬送部隊、敵と交戦中――

ニヤリとするヒュウガ。
「これはどういうことですかねぇ? クックック、貴方から“個人的に”報告を聞きたい ものですねぇ。」
ヒュウガの冷酷な笑いに、男はこの後の自分の運命を悟らざるを得なかった――。

「各部隊に命令。前線部隊は全て後方ラインまで退却せよ。これ以上の軍の消耗を食い止 めることを最優先とする!」
「しかし、それでは……。」指揮官の一人がヒュウガの方に振り返る。

ヒュウガは顎をしゃくりあげ、彼のそれを見下(みくだ)した。
「私の命令に何か問題でもあるのか? 情報部の分析により、シェバトはもはや地上に展 開できるほどの兵力を持たないことが判明している。地上からシェバトを一掃するという 目的は、すでに達せられた。今のシェバトの反撃は一時的なものであり、シェバトはもはや生きる屍だ。これ以上の深追いは、軍の傷 を無駄に深くしソラリス自体を弱体化させる。分かったな。」
「はい!」

各前線部隊に命令が伝達された――。



「さて、お前の“処分”だが…。」
ヒュウガは部屋に暗殺者を呼び出していた。

「このまま施設送りになるのが良いか、それとも…。」
ガシャン。ヒュウガは男の足元に剣を放り投げた。

「この剣を抜き、最後の無駄な足掻きをするかだ。どちらか選べ。」

……くっ。
「でやぁっ!」
男は剣を抜くが早いか、ヒュウガに襲い掛かった。
ヒュウガはひらりと身をかわす。
そんなヒュウガに、男は、縦に、真横に、立て続けに斬りかかる。

ガシッ!
ぐぐぐ……。
頭を狙った鋭い一撃を、ヒュウガは左手に握った、未だ抜いていない刀の鞘で受けた。
どん。

シャッチャッ。
ヒュウガは鞘で男を押し飛ばし、刀を抜き、構えた。
「それがお前の答えか。」

死への恐怖――剣を取り戦う理由はそれだけ。何かを――誰かを守りたいと自分の恐怖を 押し殺し武器を取った彼らの理由とはあまりにもかけ離れている。守るべきものは自分。 この男は死神を追い払うために今、必死に剣を振り回している。この男に狙われた時の自 分もそうだった。かつての自分、ヒュウガはこの男の形相に自分自身を見た。

キン!
キン!
刀から何度も火花が散る。

「やぁっ!」
キン!
バサッ!
「うわぁっ」
ビシャッ!
血飛沫が飛んだ。
刀を交えたすれ違いざまに、男の右わき腹から血が流れ落ちる。

――死にたくない――
男は振り向き、再びヒュウガに斬りかかった。
ヒュウガはその剣の下をかいくぐり、男の身体を正面から縦に斬った。
ぐう、とうめき声を発して男は膝から前のめりに倒れた。

ただし、斬ったのは表面の皮膚と筋肉だけ――。
それでも血は容赦なく身体から噴き出す。もはや立ち上がるのは無理だった。

カシャ。
ヒュウガは刀を一振りすると、鞘に収めた。
「今回は命だけは助けてやる。私の気まぐれだ。だが次は覚悟しておけ。そのことを、身体の傷と共によく 心に刻み込んでおくのだな。」



後日

「おい、ソラリス軍が引き上げていくぞ!」
「とうとう、終わったのね。」

人々の喧騒を他所(よそ)に、ユイは1人離れて空を見上げていた。
「あの人……本当に……。」



私がもし、戦いをやめたのならば……。
そう、いつでも迎えてあげるわ。貴方を。
シェバトはそういう国だから。

ユイの言った「シェバトはそういう国だから。」というたった一言を書きたいがために、 書き起こした話です。途中サボって話をかなり省略しちゃいました。 やっぱり戦争話はダメなんです。だから、細かいところはツッコミ禁止(爆)

意外でしょう〜(笑)。ここの話達を読んでみるとね、そうは見えないけど これは本当の気持ち。
ゼノギアスがそういう話だから付き合って書いているけど、 本当は戦争モノ大キライなんです。ゼノギアスが戦争モノだって予め知っていたら、 絶対買わなかったもん。
裏を返せば、「大嫌いな分野の話」を書くほど「ゼノギアスが好き」ということなのです。
ちなみに流血ものや惨殺ものもキライ。ドット絵で現実味がなかったから耐えられたけど、 やっぱり兵士達を倒すのは精神的にキツかったです。 あと「格闘ゲーム」も絶対にやらない分野です。 うちのクソ長い「エピソードうんたら(笑)」の敵がアンドロイドなのもそんな理由。 本当は「クローン」でも良かったんですよっ!  でも、やっぱり「人」を倒させたくなくってアンドロイドにしています。 この中でフェイに言わせた「人間じゃなくて良かったじゃないか。人間を傷付けるのは、 あまり気持ちいいものではないよ。」というのは私の本心です(笑)。
(けどレアリエンでも血いっぱい出して死んでいく「あのゲーム」は 電源ぶった切ろうかと思いました。しかも「完結編」では人も盛大に血を出して死んでるし。 子供と一緒に出来ないゲームを作らないでください。)
……とかいいながら「血のいっぱい出る話」がわりとあるのは「ゲームがそういう話だったから」と いうことにさせてください(逃避)。「刀」を使うとどうしても流血モノに なっちゃって。(^^ゞ

ところで、ヒュウガが引き上げた理由は、「ユイ込み込み(笑)でシェバトの人々を 愛してしまったから。」ということにしちゃいました。(^^ゞ

やっぱり、(設定上はそうなっているであろう)「たった一人の女性のために」と いう話は、私には「こっぱずかしくて」書けましぇ〜ん(苦笑)。 いくら事情全部込み込みでヒュウガ好きであっても、無理なものは無理なんです。
だって、だって、たった一人の女性のためにという男性が この世の中に実際にいるなんて、私は「思ってもみなかった」んだもの。 実際はいるみたいだけど。 そーゆー人の前では、絶対に相手の女性の悪口を言っちゃダメだよ。 後がコワイから……(笑)。
あと、突然のラブシーンは唐突に頭の中に降ってきたのでそのまんま書きました。 だって、勝手にヒュウガが動くんだもん……おかげで一気に話が進んだのも事実(爆)。
で、ちょっとだけヒュウガの性格設定を変えちゃいました。誇り高き(実は えらそーなだけの)守護天使様。黒月の森でエリィに言った “私も以前はそうでした”が妙に引っかかったもので。