(おことわり:この文章は1ファンの手によるファン小説であり、実際のゲームやゲーム会社とは
一切関係ありません。)
「キングを、キングを診てください。」
「今、ご自宅の方にキングがいます。すぐに。お願いします!」
「リコは無事なのですか?」
シタンの問いに、いいえ、とバトラーは首を振った。
「バトラーは大怪我を負うことも多く、多少の打傷なら手当ても出来るものがおおいのですが、
多少の医術の心得のあるバトラーでも、全く手の施しようがありません。先生、早く!」
「分かりました。すぐに向かいましょう。」
バトラーの脇で、バトラーを心配そうに見上げるミドリの存在に、エリィは気がついた。
「ミドリちゃん、貴方がここまで道案内してくれたの?」
コクリ、ミドリが頷いた。
「……泣いてる……。」
「え?」
「ちょっと。ミドリちゃん。どこに連れて行くの?」
ミドリがエリィの腕を、ぐいぐいと引っぱって行く。
「ミドリ!! そちらには行ってはいけない……。」
シタンの静止を聞かず、ミドリが引っぱって行った先は、シグルドのいる部屋。
「お兄ちゃん……泣いてる……悲しんでる……苦しんでる。」
両手をつき、肩で荒い息をして、うなだれているシグルドの前で、ミドリは再び口を開いた。
「ミドリ。シグルドのことですか。」
エリィの後ろからついてきたシタンの問いに、ミドリがコクリと頷いた。
「お兄ちゃん……早く治してって、叫んでる。」
「シグルド……。」
シグルドは下を向いたまま、苦悶の表情で耐えている。おそらくは再び禁断症状が
出始めているのであろう。手足は震え、表情は何かを探し求める時と、憎しみに身を裂かれる時が、
交互に交じり合う。
いつもなら、すぐさま鎮静剤を打つところなのだが……。
シグルドはミドリを横目でチラリと見、下を向き再び苦悶の表情を浮かべる。
「……早く……治して……行きたい……って。」
「え?」
先生!!
バトラーの声に、シタンはハッと我に返った。今はこうしている場合ではない。
一刻も早くリコを診てやらなければならない。このバトラー達の様子だと、リコは多分……。
「シグルド、もう少し耐えてください。きっと……。」
うなだれるシグルドの頭の上からそう言うと、シタンは調合した鎮静剤をシグルドに打った。
……シグルドの苦悶は、これでひとまず収まる。次はリコの番だ。
「リコは私の家にいるのですね。」
シタンはバトラー達をフェイの家に残し、慌てて家に戻った。
酷い……。
リコを診るなり、シタンはすぐに開腹手術の支度に取り掛かった。助かるかどうかは分からない。
だが……これだけの状態であっても、ここまでたどり着けたリコならば……。シタンは
祈るような気持ちだった。
しかし、なぜ、なぜこのようなことが立て続けに起きるのか。今、何が起きているのか。そして、
それは何を目指しているのか……。その目的とは……。
シタンには整理が全く出来なかった。何かが裏で、全ての糸を引いているのは分かっている。まだ、
“ヒト”には何かが隠されているのだろうか? 天帝すら知らない何かが……。あ……?
「あなた。あなた?」
「……ユイ……。」
「大丈夫? かなり疲れているみたいだけれど。」
ユイは、ソファーに腰を掛け、両手で頭を抱え込んでいるシタンの隣に座った。
「……私は大丈夫だ……。」
「そう。リコさんの状態は……?」
「分からない。“中”も見た目と同じくらい酷い状態だったから。」
……大丈夫……
「ミドリ!」
トコトコトコ、ミドリが両親のいる部屋に入ってきた。
「ミドリ、あなた分かるの?」
コクリ。
ユイの問いかけに、ミドリは無表情のまま頷いた。
「……たくさんあるの……生きる理由。……死ぬ理由は……ないの。」
「生きる理由? 死ぬ理由?」
うん、と、ミドリは言った。
「あの人、生きる理由、たくさん持ってるの。だから大丈夫。」
はぁ、とシタンはかすかなため息をつき、感心ともつかぬ、また嘆きともつかぬ言葉をもらした。
「……ミドリには、何でも“聞こえてしまう”んですね……。」
「さぁ、ミドリ。もう遅いから一緒に寝ましょう。」
ユイはミドリを連れ、部屋を去った。
ミドリがこれ以上“何も聞かなくてすむ”ように、ユイは今晩、ミドリの傍から離れないだろう。
……時計の針だけがカチコチと進む。
この夜さえ越すことが出来れば、リコは生き延びる。この夜さえ……。
「ねぇねぇ。トロネちゃん、トロネちゃん。」
「なんだよ、セラフィータ。」
「あのね、あのね……。」
ごにょごにょとトロネに耳打ちするセラフィータ。ちょっとだけ背伸びをして、話の区切りごとに、
ピクピクと得意げに動くセラフィータの“うさぎさんシッポ”が妙に可愛い。
うん、うん、と相槌を打った後、振り返ったトロネ。
「お前、なんつーことを考えてんだ。」
トロネにキッパリと言われ、シュンとするセラフィータ。こーゆーときのセラフィータは、
彼女の“うさぎさん耳”まで前に垂れるようだ(笑)。元々彼女の“うさぎさん”は、
垂れ耳なんだが。
「……けど、おもしろそーだな。」
「そうでしょ、そうでしょ。」ピクリと動く“うさぎさん耳”。
「最近、退屈してたし行って見るか。行こうぜ、セラフィータ。」
「うん。トロネちゃん。」
トコトコ、ノッサノッサと歩いていると、そこにケルビナが。
「あれ? トロネ、セラフィータ。どこに行くの? ドミニアが待機してろって
言っていたじゃない。」
「うん。あのさ、その“待機することになった元凶”を調査しに行ってくる。不穏な動きが
あるってウワサがあるからさ。」
「いってくるー!」トロネに続いてセラフィータが繰り返す。
「いいの? そんなことして。もしも大きな暴動が起きた時に、二人がいないことが分かると、
ドミニア怒るわよ。」
「いいって。別にあいつがリーダーってわけじゃないし。なんてったって、リーダーは
このセラフィータなんだから。それに、この話はセラフィータが言い出しっぺなんだぜ。」
えっへん、と元々大きい胸を張るセラフィータ。
「そうなの? セラフィータ。」
「うん。そうなのー。」
「ついでに元凶を叩いちまえば、ラムサス様もこれ以上気を煩わすにすむだろうし。」
「……んじゃ仕方が無いわね。手分けしましょ。」少し考えてからケルビナが言った。
「おい、手分けって……。」
うふふ、とトロネに笑うケルビナ。
「私も退屈していたのよ。やることといえば、騒動の収拾と、けが人の手当てだけだし。リーダーが
やるって言えば、エレメンツはみんな従わなくっちゃね。」
「……おいおい。それでいいのかよ。」頭を抱えるトロネ。……そう言うあんただって
付いていくじゃないか。
「それで、二人はどこに行くの?」
「オレ達は……。」
「ん、分かった。それじゃあ私は、もう一つの方を担当するわね。」
「気をつけろよ。」
「……つけろよー。」
「そっちもね。」
3人は、トロネ&セラフィータの2人と、ケルビナの1人の二組に別れて、出て行った。
翌日
「先生! リコは助かったのか?」フェイが飛び込んできた。
「毎度毎度言いますが、入ってくるなり……。貴方は唐突すぎます。」半ば呆れ気味のシタンが、部屋のソファーがから立ち上がった。
「リコはこちらですよ。」
!!
「なんだい、このゴリラは。」
バトラーが取り囲む中に、一匹の“ゴリラ”……じゃない、リコだ。ゴリラの着ぐるみを
被っているリコである。ぷっと吹き出すフェイにバトラーが。
「笑わないでくれ。これだけ大柄のキングを気づかれずに運び出すのは、普通の変装じゃ
出来なかったんだ。」
だからって、よりにもよってマウンテンゴリラですか……似合いすぎかと思うが。
「あまりにもリコの状態が悪く、脱がすことも出来なかったんです。」とすまなそうにシタン。
それって、着ぐるみ部分を切って脱がせば良かったんじゃ? 慌てすぎて、忘れていたと
正直に言えばいいじゃないか。それとも着させておきたかったのか?
「……(ハァハァ)……。ところで先生、リコの様子はどうなんだい。」
笑いを噛み殺すモードから、やっとのことで立ち直ったフェイが聞いた。
それに対し、シタンは真顔で首を横に振る。
「普通の人間ならば、3回は死んでいてもおかしくない状態でした。彼の腹腔はまるで
血の海でしたよ。なんだったら全部説明しますが? ……どうしました? フェイ、真っ青な顔を
して。」
「いや、いいよ。先生。説明の必要は無い。……想像するだけで、気分が悪くなったから。」
「とにかく、ここしばらくは安静ですね。危険な状態を抜けたとはいえ、まだまだ油断は
出来ませんから。」
シタンの返事をきくなり、ふと、気づいたようにフェイが言った。
「シグルドさんといい、リコといい、まるで、先生を足止めしているみたいな感じだね。」
フェイの言葉に、シタンはギクリとした。
……そういえば、そうだ。この数ヶ月の間に世界中で立て続けに起きている出来事と、自分の事を
つなげて考えて見なかったが、何か関係があるかもしれない。足止め……シグルドの治療の目処が
立つまではラハン村を出ないと考えていたが、それが自分とフェイに対する“足止め”だったと
したら? しかもバルトまでここに留まっていた。その間に着々と誰かの手により事象が
進められているとしたら?
“――我等は原初からの運命<さだめ>により……”
昔、天帝から聞いた言葉が、シタンの頭をよぎる。今、その時が訪れようと
しているのか? ミァンはエリィの中で一つに戻り、フェイは全てを救ったの思っていたのは
間違いだったのか? まだ何か一つだけ、この星には秘密が隠されているかもしれない――。
まさか、“もう一人のミァン”がいるとでもいうのか? ならば“彼女”が望むとすれば……。
「……フェイ、もう一度だけ、旅に出ましょうか?」
「ニサンの件、如何いたしましょうか?」
「ああ、あそこですか……。ゴチャゴチャと言って来ているのでしたね。」ロキはさも面倒くさそうに言った。
「……あそこには、少し黙っていてもらいましょうか。」
「ということは?」
リコが聞き返す。
「理屈はどのようにも付けられますよ。“あなたの政権”を認めないのは、アヴェと結託しているからだ。ニサンは
アヴェと裏で結託し、キスレブへの攻撃の準備をしている……とでも言っておけば
いいでしょう。飛空艇の準備は出来ていますか?」
「はい。」
「では“飛ばし”なさい。便宜上、ニサンに捉えられているキスレブ人の解放のためとでも言って。」
「分かりました。……その後、地上での攻撃を開始します。」
「ふふふ。この事態に、バルトはどうしますかねぇ。」
リコが出て行った後、ロキは不敵に笑った。
「それに、ようやく“私”の存在に気づき始めたみたいですしねぇ。クックック……。」