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花の名は……

はるですねー (^^)



「うわぁ、すごい!! ピンク色の葉っぱの樹よー。たぁっくさん、あるわ!」

「違うわよ。ミドリ。これね。全部、この樹木の花よ。」
「花? お花なの? コレ全部お花なの?」
“ミドリ”と呼ばれた娘は母親から離れ、一番近い樹に駆け寄ってみた。

「すごい! すごいわ! この木も……この樹も。この樹もみんな、 みんなピンク。ぜーんぶピンク色! うわーい!」

「うふふ……。ミドリったら、走り回っちゃって。ねぇ、あなた。」
「そうだね。」
傍らに笑顔を浮かべ、寄り添う女性がいる。

「……まるで、世界中がピンク色に染まったみたーい!」

「随分と遠くまで走って行ったぞ。大丈夫かな。」
「大丈夫。いつまでも幼児扱いしたら、嫌がられるわよ。あの子、 あれでも、一人前の“レディ”になったつもりなんだから。」

「お母さーん! この林ぜんぶの樹が、まるで、お化粧しているみたーい!」
遠くの方から、両手をメガホンのようにして、大声で母親に呼びかける娘がいる。

「……化粧か。なるほど、さすがは女の子だね。」
「ねぇ。いい眺めね。毎年、春が来るたびにこの花は咲くけど、何度見ても美しい花よね。 私たちの心を揺さぶる美しさ。私たちの魂の故郷。……ありがとう、貴方。」
「どうしたんだい。急にあらたまって。」
「ううん。いいのよ。」

「ミドリー! そろそろ、お弁当にするわよー!」
「はーい!」元気な声と共に、ミドリが走ってくる。



「はい、お父さん。これ私が作ったの。たくさん食べて!」差し出したのは、“おーきなおむすび”
「へぇ。おいしそうだなぁ。コレをミドリが作ったのかい? どれ、頂くとしますか。」

“あーんぐり” ぱくっ!

「どう?」
「ん、おいしいよ。」
「これも、これも、みんな、お母さんと私で作ったの。」
「ミドリはいいお嫁さんになれるね。」
ホメられて、父親に頭をなでられて、鼻高々のミドリ。

「……けれど、私はお前をヨメに出さないぞ(笑)。」
「まぁ、あなたったら。」ユイが笑う。

うふふ……。あはは……。

あはは……。

あ……。

……。


「ユイ! ミドリ! どこにいるんだい?」
シタンの問いを塗りつぶす、ただただ、真っ黒い闇。



「おーい!」







……あなたー。いつまで寝てるのー!
瞼(まぶた)の裏に、まぶしいばかりの光

「夢か……。」
シタンは床(とこ)から起き上がり、窓の外を見た。

見えるのは、“見慣れた”緑の山々、緑の草原、緑の大地。

“あの光景は、いつのことだったのか”
心を揺さぶる花。夢の中ではよく知っていたはずなのに、 今思うと全く覚えの無い花。
あの花の名前は何というのだろう。 景色全体が桃白色に煙る、あの花の名は……。
シタンは、そんなことを考えながら、下の階に下りてきた。

「おはよう、あなた。朝食冷めちゃうわよ。」
「おはよう。今いただくよ。」
「今、お茶を入れるわね。」

お茶を入れるため、後ろを向いたユイの背中に、一片の花びら。

「ユイ……それは?」思わずシタンが取って見る。
「あら、何の花びらかしら。見たことが無いわね。この花の色は白かしら。」
「いや、薄い桃色だ。」
「あなた、知っているの?」
「いいや。知らないよ。」
「本当だわ。あなたの言う通りね。よく見ると、わずかに桃色だわね。この花びら。 何という名前の花なのかしら?」

ああ、それはね、と口を開きかけて、シタンは戸惑った。
“……思い出せない……”
“あの夢の中では、誰もが知ってる花だったのに”



トコトコトコ
ミドリが産んだばかりの卵をいくつか抱いて、家の中に入ってきた。
「あら、新しい卵?」
コクリ、と相も変わらず無表情のまま、頷く娘。

このミドリの仕草を見て、やはり、あれは夢だったのだなぁと心底思うシタンであった。
――愛らしく振る舞う愛娘(まなむすめ)――

ミドリが卵を抱いたまま、シタンの目の前を通り過ぎたとき、 肩からハラリと舞い降りた―
――“花びら”



……………サク…ラ……?

あとがき:
春です! 花見です!! そんでもってポエムです。(^^)
忘却の彼方に消え去ったくらい膨大な過去生の中に、 “21世紀の日本で花見をするウヅキ家”があってもいいんじゃなかろーか?と、 それこそ夢を見てみました。 とくに、笑顔いっぱいの愛らしいミドリちゃん(笑)。 前半のミドリちゃんの設定は9〜10歳くらいです。この話では、その方が可愛いから(爆)。
ゼノギアスの世界にサクラ(一応ソメイヨシノのつもり)があるのかどうかは分からないけど (特にそんなこっちゃ決めてないだろーし;爆)、 このお話では、サクラは存在していない……ということにしてみました(笑)。 だってその方が、存在しないはずの花の名前を知っていることになり、よりドラマチックですから(笑)。

石ノ森さんの特集を見ていたときに、何故か取り上げられてもいない「H○TEL」を唐突に思い出し、 花盗人(だったと思う)の“かつて幸せだった思い出”が、この話のヒントになりました。 この話自体は、全てを犠牲にして捨て去ってきたモーレツサラリーマンの価値観と、 その息子の新しい価値観がぶつかる物悲しい話なんですけどネ。(^_^;)
眠れないでいる“まどろみ”の中、花を返せ! 花を盗ったのは誰だ! と 叫んでしまう父親があまりにも悲しくって。(もちろん折り取ったのは自分)
なので、幸せな家族の図から、急に暗転してしまうのは、その名残なんです。(^^ゞ

ただし、この暗転には深い意味が無くって、単に夢から現実に切り替えるためのシロモノです(爆)。
夢か現(うつつ)か、よく分からないところが楽しいかな、と。(*^^)v