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意地悪な貴方





「先生。俺には先生しかいないんだ。」
フェイがシタンに懇願している。

「フェイ……。」
対して、あまり気乗りがしない様子のシタン。

「頼むよ。」

「後悔しても知りませんよ。」
「いいんだ……。やってくれ、先生。」
「そう……ですか。では、フェイ。脚を開いて。そう、ゆっくりと……。」

フェイはこわごわと脚を開いていく。あるところでフェイの動きが止まった。

「フェイ。それで終りですか? もう少し柔らかい 体だと思っていましたが。それでは開き方が全然足りませんよ。」

「つ……。」
ぐいっとフェイの脚を引っ張り、シタンはさらに脚を開かせた。 フェイの口から思わず声が漏れる。

「辛いのならば止めた方がいいですよ。」
フェイの息はすでに荒い。
「……つ、辛くなんかないさ……。先生だったら……俺……どうされても……。」
「また、ずいぶんと信頼されたものですね。その方が、こちらもやりがいが ありますが。」
シタンは小意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「フェイ。もう少し開くでしょう?」
シタンはフェイの脚をさらに開かせる。
「ああっ!」
フェイの顔は苦痛に歪み、彼の意志に関わらず、身体はぶるぶる震えていた。

「震えていますね。恐いんですか?」
シタンは口の端で笑っている。
「……。」

「これからもっと辛くなりますよ。手加減はしませんから。」
フェイは唇を噛む。
「フェイ。前に手をついて。……覚悟なさい。」

ぐぐぐ……。

シタンは後ろからゆっくりとフェイの上に伸し掛かった。じっくりと、 慣らすように、ゆっくりと。

「うう……。」
フェイの口からは呻き声。

ぐぐぐ……。

シタンはさらに伸し掛かった。

フェイの身体が悲鳴を上げる。
「……せ、先生……。」


「まだまだ。」

ぐぐぐ……。

「……ま、待った。」

「まだまだ。」
シタンは一生懸命笑いを噛み殺している。

「せ、先生。助けてくれっ!」
とうとうフェイが音を上げた。

「まだまだ。フェイ。胸が床に着いていないじゃないですか。」
そう言いながら、シタンは肩で笑っていた。

「……お願いだからさ。」
フェイは涙目。暴れるにも、この体勢では身動きが全く取れない。つーか、 痛くて抵抗もできない。

「『辛い』とあらかじめ言ったでしょう。私に頼む貴方が悪いんですよ。」
シタンは大笑い。

「お願いだから、どいてくれぇ!!」
フェイの声は悲鳴。

「仕方がないですねぇ。面白かったのに。」
シタンが降りた。つまらなそうに。

「ふーっ。しんどかった。」
シタンが降りるとすぐに、フェイがギクシャクと身体を起し、膝を曲げ、 ぱんぱんに張ったふくらはぎと太股の内側と裏側とをなでさすった。

「先生。少しは手加減してよ。」
口を尖らして抗議するフェイに、シタンは知らん顔。

「先生!」

「だいたい、どうして柔軟体操を思い立ったんですか? 貴方くらい 柔らかければ、これ以上、無理をしなくてもいいでしょうに。」
弁解の代わりに質問をぶつける。ごまかしたい時のシタンのよく使う手だ。

「だってさ、先生が時々やる足技がカッコ良くて、俺もやれるように なりたかったから。」
フェイは下を向き、おずおずと答えた。
「だったら、エリィに頼めばいいじゃないですか。」
シタンは呆れ顔。

「頼んだよ。でも、あいつ、手加減しないんだ。」
「え?」

「……俺の悲鳴を聞いて喜ぶんだ。あいつ。」


「……なかなかいい性格の奥さんをお持ちのようですねぇ……。」



“ミァンの性格か。”

カールとミァンの関係を思い出しつつも、この一言をフェイには言わない、 懸命なシタンなのであった。







柔軟体操だっつーオチでした。期待された方、ごめんなさい。 (え? バレバレ)
柔軟体操というか、受難体操というか…… フェイって、相手がエリィでもシタンでも結局は可哀想かも。