元々別の場所に隠していた文章を「ここ用」に全面書き直しをして掲載しています。
できるだけ書き直せる部分は書き直しましたが、
元の雰囲気を残すため一部不適切な表現が残っています。
……ちくしょう……。
シャワー室で念入りに身体を洗うヒュウガ。
洗っても、洗っても落ちない“けがれ”。
身体に染み付いてしまった、独特の匂い。悲しい習性。
地獄を生き抜くため、こんな関係(こと)を続けて3年。
……初めは、親切かとも思った。
家族を亡くし、皆から恨まれた自分。もう、生きては行けないと思った。
「いつか殺してやる!」この言葉を随分聞いた。影で酷い目にもあわされた。
助けてくれる人など無く、皆、見て見ぬフリを決め込み足早に去っていくだけ。
死んだ方が楽なのでは、と思い始めた頃、あいつが現れた。
「守ってやるよ。」あいつの真意が何処に在るのか、当時は知らなかった。
自分の容姿が、ある種の人間にどう見られているのかすら……。
差し出された手に思わず縋った。その日から始まったのだ。
「監視人、それもリーダークラスの者が、3級市民であるお前に、特別な便宜を払う訳にはいかない。それは分かっているな。だから、表立ってお前を守ることは出来ない。だが、それをやってやろうというのだから……その代償は、もう分かっているだろう?」
この言葉に頷いた時から……。
「もう帰るのか?」
けがれた匂いの残る男の問いに、ヒュウガは嘲笑とも取れる微笑みを浮かべた。
「用事は今済んだでしょう。今後も、くれぐれもよろしくお願いしますよ。……貴方の“お楽しみ”の為にもね。」
精一杯の皮肉を言って、ヒュウガは出て行った。
「ふん。相変わらず可愛げのないガキだぜ。
こっちが甘い顔をしてりゃあ、いい気になりやがって。
3級市民ふぜいが。」
男は乱暴にタバコの火をもみ消すとモニターのスイッチを入れた。
「……そうだ。いつものようにな。ただし、今回はお前たちの気の済むまで……。」
空しい……。何もかもが。このまま、いつまで生きていられるのだろう……。
ヒュウガは帰路につく。
角を曲がると、数人に取り囲まれた。
「お前、リクドウだな。」
また、こいつらか……。
「ちょっと来い!」
「あの事件は、お前がやったんだろう!」
毎回毎回、同じ台詞。
「言え!」
よくも飽きないものだな。
「黙ってんじゃねーよ!」
口を開いても、黙ってても、お前らのやることは同じじゃないか。
あいつは今頃、監視カメラで見ていることだろう。おそらく笑いながら……。
そして、叩きのめされ立ち上がれなくなる頃、恩着せがましく現れる。
“治安維持”という白々しい大義名分の元に。いつもの事だ。
「お前達、そこで何をしている!」
通りかかった金色(こんじき)の髪の持ち主が止めに入った。
「誰だ。お前は!」
「おい。止せ。あいつ、ユーゲントの制服を着ているぞ。」
「ユーゲントだか何だか知らないが、相手は1人だ。」
代わりに、止めた入った若い男が取り囲まれた。いや、
彼の姿形から少年と言ったほうがふさわしいかもしれない。
ヒュウガは自分と同じ年頃と思われる少年の身を案じた。
「うわっ!」
「くそっ。覚えていろ!」
金髪の主は、あっさりと数人を打ち倒した。
つ……強い。
「ありがとうございます。お陰で助かりました。」
ヒュウガは頭を下げ礼を言った。
「あれは、いつもの事なのか?」
「ええ。まあ。」言葉を濁す。
「それなら、家まで送ってやろう。俺はカール。カーラン・ラムサスだ。」
ラムサス? ただの通りすがりのくせして、自己紹介するなんて変わった奴だな。
「あれは、本物か?」
ヒュウガに出されたお茶を置き、
ラムサスが2振りの刀を指差した。
「ええ。祖父から譲り受けたものです。今では、形見の品ですけれど。」
「そうか。お前は使えるのか?」ラムサスが聞く。
「え?」
「この刀をだ。」ラムサスが再び聞く。
「ええ。まあ、一応は。」ヒュウガはあいまいな返事をした。
「それなら何故、これを使わない? そうすれば、あんな目にあわされずに済むのに。」
「そして私は、良くて“リアレンジ”。最悪の場合は――“処分”される。
2級市民である貴方には分からないでしょうけれども、そういうところです。ここは。」
ヒュウガが表情一つ変えず冷静に言ってのけた。
「……それで、奴に身を任せて、その代償にとりあえず“生かして”もらっている訳だな。」ラムサスがぽつんと呟いた。
「何故、貴方がそれを知っているんです!」ヒュウガの顔色が変わった。
ラムサスは、驚くヒュウガを素早く押え込み、顔を近づけて、ややかすれた低い声で言った。
「よーく知っているさ。お前の事は全て調査済みだからな。父はショウキ。母はルリ。たしか第9子だったな。家族は3年前に全員死亡。そのとき、生き残りのお前は当局に――。」
ヒュウガが、ラムサスの言葉を遮る。
「止めて下さい! あれは――。」
今度はラムサスが、ヒュウガの言葉を遮る。
「そう、お前のせいじゃない。あれは当局側のミスによる事故だ。けれど家族を亡くした連中は、そんな説明では納得しない。当たり前だ。当局が相手では、どうしようもないからな。
だから、当初疑われていたお前に、全ての不満をぶつけてくる。お前が犯人であろうとなかろうと、それは彼等にとって関係ないことだ。
おそらく3級市民による嫌がらせは、お前が死ぬまで続くことだろう。お前は丁度いいストレス発散材さ。
3級市民にとっても、それに、“当局にとっても”な。お前は生殺しの“生け贄”なのだよ。」
ラムサスはここまで一気に言うと、ヒュウガの唇に唇を重ねてニヤリと笑い、今度は優しく語り掛けた。
「今の生活は惨めだろう? ヒュウガ……。」
悪魔の誘いだ……。この少年も、あいつと同じなのか……。
そしてラムサスは、ヒュウガの耳元で囁いた。
「……俺が、お前の人生を買ってやろう。」
今、何と……。ヒュウガは言葉を形作る事が出来なかった。
「奴よりもいい思いをさせてやる。今からずっとな。」
ヒュウガを見下ろすラムサスの言葉に対し、
ヒュウガは身を固め、横を向いたまま押し黙っていた。
「奴に操立てしているのか? 飽きられれば、それこそ“リアレンジ”か“処分”だぞ。だが、その前に見殺しにされるのが先かもしれんな。その方が後腐れもないからな。
それに、あの連中…… 。」
“グサリ”
ラムサスのこの言葉は、ヒュウガの不安を見事にえぐった。
もちろん、裏で誰が糸を引いているかはヒュウガも気づいていた――。
……懇願したところで、あいつは用が無くなれば
迷うことなく俺を始末するだろう。
死亡報告なんぞ“暴行の発見が遅れ手遅れだった”とでも、どうにでもなる。所詮、俺は3級市民だ。
また、死を恐れてあいつらに歯向かえば堂々と“処分”することもできる。“リアレンジ”ではなく、
いきなり“処分”だ。あいつはそれを決定できる立場にいるんだからな。
だから、時々それを思い知らせるためにあいつは俺を襲わせる。
自分の手を汚さずに、だ……。
――気づいたところで、ヒュウガにはどうしようも出来なかったのだ。
どちらに転んでも、待っているのは地獄。
いや、生け贄たる“今”こそが地獄なのかもしれない。
「俺は、お前が欲しい。お前は頭も切れる。お前を3級市民のままで終わらせたくはない。俺は、いつかきっと、この国を実力のある者が支配する国に変えてみせる。その為にも、俺にはお前が必要だ。だから、俺に付いて来い!」
………この少年に賭けてみよう………。
ヒュウガはラムサスの手首を掴み、微かに微笑みを浮かべて一言。
「続きはあちらで……。」
途切れ、途切れの息
「もう……許してく…れ……。」
ついにヒュウガが根を上げた。
野生の馬は、振り落とせないと悟った時、馬上の人間に対して従順になるという……。
人にはその生き方によって、千の言葉を並べるよりも、はるかに効果的な攻略法がある。
力に頼るものは力。知に頼るものは知。肌に頼るものは……ラムサスはそれをよく心得ていた。
ヒュウガが、己が最も理解できる方法で、自分を試そうとしていることも。塵同然に捨てられ、
そこから這い上がったラムサスには、周りに見捨てられ、地獄の泥沼の中、それでも生きるヒュウガの心の動きが、
手に取るように分かるのである。ラムサスのこの記憶は、もしかしたら
“融合した身体の持ち主”の記憶によるものかもしれない。
だから、ヒュウガの懇願にもラムサスは手を休めることはなかった。
ヒュウガの固く閉ざした心の扉を粉々にしてしまうまで。
ヒュウガの素の心に触れることが出来るまで。
シーツを握り締めていた手から力が抜けた――。
……ん?
「気が付いたか?」
この少年は、俺が気付くまでここにいてくれたのか?
……あいつは“自分の用が済む”と俺を路上に投げ捨てたのに。
「これを着ろ。」
ラムサスから差し出されたのは、一着のユーゲントの制服。
彼が身に着けているものと同じ。
「これは?」
「お前の物だ。お前は今からユーゲントに入る。全てはそれからだ。」
ラムサスは知らなかった。
今日、手に入れた者が、いずれ自分に仇成す者となることを。
また、ヒュウガはいずれ3級市民に起きた事件に隠された真相を知ることとなる。
ラムサス、ヒュウガ、共にまだ15歳の出来事であった……。
あとがき:
うわ〜、やっちゃいました。ノーリンクから一転、皆様の目の届く位置に掲載。(^^ゞ
やばやばネタですが、ン年ぶりに読み返してみてやっぱり気に入っていたことを自覚したので、
まんま表現(笑)をすべて取っ払って雰囲気のみにしてみました。
大丈夫だよね? 大丈夫だよね?? これ読んでしまった皆様。
取っ払った分、説明が足りなかったな〜と感じたところをかなり書き足したのですが、
全部で約1kbほど文章が減っちゃいました(笑)。
公式設定資料集(パーフェクトワークス)の180ページあたりの左下にある数行の文章が元ネタです。
ただし、迫害されてた頃のヒュウガが何をしていたのか説明はありません。
このあたりは私の空想癖がもたらした結果です(人はそれを妄想という)。
これをまともに信じないでくださいね〜〜! 『そこまでやるか〜』のゼノギアスだったから、
うっかりしたこと書くと妙に信憑性がでちゃって(困)。ラストでラムサスが制服を渡したのは
ヒュウガを納得させるためと、実はヒュウガの服を派手に破いちゃったから、
というオチがあります。破いちゃった部分は今回見事にカットさせて頂きました。
元の文章にはちゃんと描写があります(大笑)。
あと、「ヒュウガはいずれ3級市民に起きた事件に隠された真相を知ることとなる。」と
文末に書いてますけど、書いてるわたしゃ真相を知りません(爆)。
それこそ、守護天使ヒュウガとゼノギアスの神(スタッフ)のみぞ知るです。(^^ゞ
カレルレンとかミァンとか、何かやらかしたのでしょう……きっと。