TOPへ戻る 目次へ戻る ほんのちょっとした出来事(後編)

ほんのちょっとした出来事(前編)

久々のシリアス(?) 時間軸はEP1クーカイ・ファウンデーションでの1コマ



――――― 共鳴 ―――――


「鍵が発動するまでには、まだ足りない……」

モニタリングする紅い影。
開発者達すら知らない、やや暗号じみたトリッキーなメインコード(kos-mosブラックボックス)の中に、 巧妙に仕込まれた監視システム。一体、何が目的なのか

「無機物と有機物の共鳴かい?」やや笑いを含んだ声があたりに広がる。
「はい。“彼女”には、キーを作動させる力があります。足りないのは“共鳴”。」
紅い影は振り向かずに、背後の主(あるじ)に返答した。
「君が“人柱”になっただけでは、足りなかったと言うワケかい? あの時、 僕は君を含め、相当数の人間を生け贄に捧げたと思ったけれどね。君も残酷だね」
「……」

「あと、何人ほど必要なのかな?」
紅い影は答えなかった







クーカイ・ファウンデーション

「……ということで、好きに遊んでいってくれ。ここは娯楽施設だからな」
Jr.に言われ、街に下りたシオンとアレン。

「噂にたがわず、すごい所ですねぇ」アレンがため息交じりに言った。
「そうねぇ。活気があるわね」あたりをキョロキョロとしながら、シオンが答える。
「主任も仕事ばかりですから、Jr.さんの言葉に甘えて、たまには息抜きをしたらどうですか?」
「うーん。まだKOS-MOS輸送の職務遂行中といえば職務中だから、あまりハメは外せないけど。 室長にバレたら大目玉だもの」
「大丈夫ですよ。今だけ、副主任の僕が、主任の休養を認めます」
胸を張るアレンに、シオンはうふふっと笑った。



「主任、ここなんかどうですか?」
横を歩くアレンが指さしたのは、総合レクレーション施設。
「たまには身体も動かさないと。“遊び”ではなく、人間に必要な“運動”です。これならいいですよね」
「そうね」
シオンたちは、中に入って行った。

「いらっしゃいませ」フロントが出迎える。
「ここ、会員のみかな?」アレンが尋ねてみた。
「いいえ、初めての方も遊べますよ。ビジター料金もあります。施設の内容と料金は、このパンフレットの通りになっております」
ふむふむ、とパンフレットに見入る二人。

「そうね。ボーリングなんかどうかしら? 久々にスカッとしたいわ」シオンが瞳を輝かせる。



バッコーン!! と景気良く吹っ飛ぶボーリングのピン

「ターキーだわ。アレンくん、すごいじゃない」
レーンから戻ってくるアレンにシオンが言った。
「ボーリングなら、負けませんよ」アレンが胸を張った。
そもそも、他のパーティーメンバーの肉体能力が飛び抜けすぎていて全く目立ってないが、 アレンだってフツーの人間である。(他のメンバーがそもそも人間じゃないって話もあるが……)
フツーの競技なら、並なのだ。並。

「よーし、次こそはダブルを狙うわよー」シオンが球を放った。
バランスの良い素直なフォームから繰り出された球は、レーンをまっすぐ転がり、 小気味良くピンを弾き飛ばす。
「あ、割れちゃった!」
無情にも、両側にピンが残る……スプリット。

「えっと、何番と何番が残っているのかしら」遠目からは、ピンが重なってよく見えない。
アレンが確認しようとモニターを覗き込んだとき……

ひゅんひゅゆーん
モニターとレーンの照明が暗くなった。
なんだ、なんだと、不思議がる客。

「……申し訳ありません。ただいま、電気系統の故障が発生したようです。 すぐに調査復旧しますので、しばらくお待ちください……」館内放送が入る。

すかさず
「お客様、何をお飲みになられますか?」
スタッフの女の子が手際よく、その場で遊んでいた客に対して飲み物を運んできた。

「復旧までしばらくかかるそうです。こちらは、故障のお詫びとしての心ばかりの サービスです。こちらにあるお飲み物の中から選んで、お飲みになりながら、 お待ちになってください。」
「それなら、お言葉に甘えていただこうかしら。アレンくん、どれにする?」



レーンの周りには、メンテナンスの係りがたくさん集まっている。
「なかなか復旧しませんねぇ」その様子を見ながら、アレンは、自分の選んだ飲み物の最後の一滴を、ゴクリと飲み干した。
シオンのジュースは、当の昔に空になっていて、解けた氷の水しか残っていない。
なんとなく、ストローに口をつけ水でしかなくなったそれを、ズズっと吸った。
「……うーん、帰ろっか」

フロントに事情を話し、帰ろうとする二人。
すると、通りかかったフロア係と思わしき人物が二人を引きとめた。
「お帰りですか? もし、良かったらですけれど、フェンシングなんて如何ですか? パンフレットが間に合っていませんが、新しくフェンシングの施設ができてます。 この料金は1度に限り体験として無料となっております」
「へぇー、無料だって。アレン君、出来る?」シオンがアレンに尋ねた。
どう見ても、そういう系は、あまり得意そうには見えない外見。

「いちおー、学生時代にかじってます」少しむくれるアレン。
「じゃいっか。やってみよ。お願いします」
「かしこまりました」



「わぁー、本当に出来たばかりみたいね。道具もみんな新しい」感嘆の声を上げるシオン。
「思ったよりも広い作りですねぇ」とアレン。

体育館の半分よりはやや広く、試合スペースが4つ確保されている。
「防具はこちらにあります。更衣室は向こう側にありますので、そちらで着替えて下さい。 ……それと、この施設には係員が常駐していませんので、もしも事故などが起きましたら、 こちらのインターフォンでフロントを呼び出してください」
「……ん。じゃ、すぐに着替えて始めよっか。フルーレでね」



フェンシングの剣がカチンカチンと交差する。
二人ともあまり上手いとは言えないが、ちょうどいいレベル同士らしく、 けっこうムキになってやってるようだ。
フェンシングに関しては、実はシオンもあまり上手く無い。剣道ならば、 祖父から兄と二人でみっちり習っているので、 どう考えてもアレンとは勝負にならないのだが。

ブーっとブザーがなり、相手の剣の先が自分の胴着の胸付近に当ったことを知らせる。
「うわっと、よけそこねた。主任。次は負けませんよ。真剣モードに切り替えますから」
「ホントかしらね。手加減はしないわよ」シオンの笑い声。

試合スペースの中心付近に、二人向かい合わせに立つ。
はじめ、の声と共に、アレンが突きを繰り出す。
どうやらアレンの“真剣モード”は、口からでまかせではなかったようだ。

「ちょ、ちょっと待ってよ」
シオンは焦った。

シオンはアレンの突きを自分の剣で絡めとってやりすごすのが精一杯で、 とても反撃まで手が回らない。完全にアレンの剣を払い切れれば、攻撃権はシオンに回ってくるのだが、 アレンはシオンが反撃の態勢を作る前に、第二段、第三段の突きを繰り出してくる。 そのため、ほぼ、アレンの一方的な攻めの展開になっている。
どんどん、シオンは後ろに追い詰められていく。フェンシングの試合スペースは前後14mほどで、 あまり広くはない。 シオンは、とうとう後ろギリギリまで追い詰められてしまった。

けれども、ここまで追い詰めても、アレンは攻撃の手を抜かない。
横に飛び避けようにも、シオンの動きを読んだように、 先手を打って動きそうな場所を突いてくる。
ついに、ブーッとブザーが鳴った。アレンの剣の先が、シオンの胴着に当ったのだ。
何故か、シオンはこの音に安堵した。

……なんだか、とても疲れた。

「やるわね、アレン君。私の完敗よ」
剣を置き、スッキリした笑顔で、両手で面を外すシオン。 顔に掛かる髪を振り払うように、シオンは頭を振る。 振り払われた髪からは、汗の雫が飛んだ。

対して、無言のまま、そこにたたずむアレン。
面も外さず、その手には、まだ剣が握られたまま。

「……アレン……君?」
「………」
アレンはおもむろに、自分の剣の先端部分を、両手でバキリとへし折った。
フェンシングの剣はそう簡単に折れる素材ではない。だが、折られた剣先は、かなり鋭くとがっていた。
そう、胴着を突き抜いて人を殺せるくらいには―――――

「……アレン君? どうしたの?」
アレンは、折り取った安全カバーの付いている先端部分を投げ捨てると、 フェンシングの姿勢を取り、おもむろに、シオンに躍りかかった。

シオンは咄嗟にアレンの突きを避け、置いていた剣を拾った。
痛っ!

アレンの剣が背中をかすったようだ。
シオンの胴着の背中の一部が切れた。胸当て部分には危険防止のため金属が縫い付けられているが、 それ以外の部分は金属は縫いこまれていない。胸以外の部分を突かれたら、終わりだ。
アレンは無言。

「アレン君、お願い。しっかりして!」
さっきよりも数倍の速さで、アレンが突きを繰り返す。
……おかしい。さっきまでのアレン君じゃない。
シオンは死に物狂いで、アレンの攻撃をかわす。面を付け直している暇なんて無い。 ただ、面を外してしまい、むき出しになっている頭部を突き抜かれないように、 自分の剣で彼の剣先を絡め取るようにするしかなかった。



あとがき:
長くなりすぎました。後編に続きます(爆)。
さて、アレンは一体どうしたのでしょうーか?