「ほぎゃあ。ほぎゃあ。ほぎゃあ……。」
「生まれたのかっ?!」
父親が、たまらず部屋の中に飛び込んできた。
「おめでとうございます。可愛らしい女の子ですよ。」
「そうか……。」
彼は産湯に浸かっている我が子を確認すると、妻が横たわっているベッドに近づいた。
「可愛い子だよ。よく頑張ったね。」
「あなた……。」
彼は喜びのあまり妻の身体を抱きしめようとした。
「あ、まだ抱き起こしてはいけません!」
「ああ。これはすみません。」
彼は代わりに彼女の手を握り締めた。
「良かった。なかなか生まれなかったから心配したよ。」
「腕は?
あの子の身体は?」彼女はすがるような目をして夫に尋ねた。
「大丈夫ですよ。五体満足。とても元気な赤ちゃんです。ほらね。」
赤ん坊を抱えた看護婦が代わりに答えた。
「ほぎゃあ。ほぎゃあ。」
赤ん坊はタオルの中で元気に手足を動かしていた。
「どうぞ。抱っこしてみて下さい。あ、まだ首が据わっていませんから、左手で頭と首を支えるようにして下さい。」
ニコラは看護婦から赤ん坊を受け取ると、おっかなびっくり抱き上げた。
それを心配そうに見つめるクラウディア。
「本当に可愛い子だ。ほら、よくみてごらん。」
「本当……。」
彼女は目を細めて我が子の顔を見た。そして手を伸ばし、我が子の頭を撫でてやった。
「ほぎゃあ。ほぎゃあ。ほぎゃあ。」
「よしよし。生まれたばかりというのに、何がそんなに悲しいの?」
「違うよクラウディア。これは喜びの涙だよ。『生まれてきて良かった』『生んでくれてありがとう』って泣いているんだよ。」
「良かった……。」
張り詰めていたものが切れたのか、彼女の目から大きな粒が溢れた。
「この子の名前はどうする?」
「『マリア』。いい名前でしょう?
この子の顔を見た途端、思いついたの。」「マリアか……いい名前だ。ようし、お前の名前はマリアだ。いい娘に育つんだぞ。」
「さあさあ。奥様は大仕事を終えられたばかりで疲れてます。少し休ませてあげないと。」
「そうですね。じゃあ、また来るよ。」
ニコラは赤ん坊を看護婦に渡すと扉を開け、妻の方に振り向いた。
「あ、そうだ。僕からも君にプレゼントがあるんだ。明日、来る時に持ってくるよ。」
「なあに?」
「今は内緒だよ。楽しみにしておいで。」
ニコラは家に戻ると夢中で作りかけだった“ある物”を完成させた。夜が明けたことさえも気付かずに。