神の旅立ち1
−フェイ− ここは……! エリィ! それじゃあここは、デウスの中なのか?
―― それは正確ではない。お前の実体は物体……デウスの外殻に取り込まれているだけだ。お前の意識のみがここにある。
当然目の前にいる彼女もまた、本当の彼女ではない。意識がその姿を構築しているに過ぎない。
−フェイ− !? 波動存在……? いや、違う……。何だ……? まさか……!? お前はカレルレン!? そうなんだな……。
カレルレン! お前がエリィを!
−カレルレン− セフィロートの道は繋がった。神の旅立ちは、もはや誰にも止めることは出来ない。今更何をしに来たんだ?
ラカン。
−フェイ− 俺は愛する人を取り戻す為にここに来た! エリィを放せ! デウスのシステムは破壊した。全ては終わったんだ!
だのに、お前はまだ何をしようというんだ!
−カレルレン− 全てが始まったあの刻。全てが一つだったあの場所へと還るのだ。
−フェイ− あの場所?
−カレルレン− 宇宙の始まり以前、高次元の波動の場において、全ては一つだった。そこから波動がこぼれ落ちることによって
この四次元元宇宙が創られたのだ。そこから生まれたヒトもヒトの魂も、こぼれ落ちた波動の残りかすなのだ。だから……。
−フェイ− そこへ還るというのか? それがお前が望んでいたことなのか?
−カレルレン− ラカン……。何故そうまで頑なに神との合一を拒む。くだらん現世に何の未練がある? 他人を傷付け、
自分を傷つけ、互いを削りながら短い生を全うして土に還ることに何の意味がある? ここには全てがある。
愛に思い悩むこともない。ここには神の愛が満ちている。
−フェイ− 俺は、お前ほど人に対して絶望してはいない! 人にはいつか分かり合える時が来る! 俺はそう信じている!
−カレルレン− 何故そう言いきれる? ヒトとヒトとは、決して分かり合うことはない。お前は彼女を愛していると言った。
だがそれは本当に分かり合っていると言えるのか? 所詮ヒトは、お互いにとって都合のいいように距離を置き、
仮初のそれを、相互理解、精神の合一、真実の愛と偽っているにすぎない。ヒトは自らをあざむく事によってしか、
他人と交わることができないのだよ。そう創られているのだから……。
−フェイ− だからといって、たった一人のエゴが、全ての人の運命を決めていいはずがない!
人には自分の運命を自分で決める権利がある! 自由な意志があるんだ!
−カレルレン− その意志すらも、事前にとり決められたものであったとしたらどうする? 創られた原始生物であるヒトに
自由意志などというものはない……。ただ”そのように””そうなるように”不完全な状態のまま、生かされているだけなのだ……。
それ故に、なまじ意志などというものがあるが故に、ヒトは悲しみと喪失を経験しなければならない。
誰かが何かを得るということは別の誰かが何かを失うことなのだ……限られた”モノ”と”想い”は共有することはかなわない…
だから私は、全てを最初の時点に戻そうと結論した。波動という、それ以外何もない、一つの存在であったあの刻に……。
これは私<ヒト>のエゴではない。波動<神>の意志なのだ……。
−フェイ− それでもいいさ……。不完全でも構わない。いや、不完全だからこそ、お互い欠けている何かを補いあい生きていく……それが人だ……。
それが解り合うということなんだ! 俺はそんな人であることに喜びを感じている! エリィは、そう選択した俺達に未来<あした>を
託して、今こうやって、俺達の星からデウスを遠ざけようとしてくれている。そしてまた、たった独りで、神と旅立とうとしている。
お前の心を癒そうと……。そのエリィの気持ちが、お前には解らないのか!? 神と一つにならなければ、それが解らないのか?
俺には解る……我が身のようにエリィの想いが……。……そう、俺達は一つなんだ! 神の力なんか借りなくても!!
−カレルレン− ならばそれを私に見せてくれ。神の下から巣立とうと言うお前達ヒトの力<愛>を……。
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