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遠い日の記憶−カレルレン


−カレルレン− 心を落ちつけるには書物を読むのが一番だと、ソフィア様に勧められて始めたんだが、 のめり込んでしまってね。今では結構物知りになったよ。自分で言うのもなんだがな。 最近はこんなものを読んでいる。

−ラカン− なんだい? それは?

−カレルレン− メルキオール師からお借りしたものなんだ。分子工学……ナノテクノロジー。 太古に滅んだゼボイムとよばれる文明の遺跡から発見された書物。だれかの研究リポートの複製らしくてね、 完全ではない。もっと凄いことが書かれていたみたいなんだが……。


−ソフィア− どうしたの? 具合、悪そう。ここのところ毎日ふさぎ込んでいるような気がする。 何かあった?

−ラカン− 自分でも解らない。だけどなぜだか筆が進まないんだ。ごめん、もう今日は……。

−ソフィア− そう……。無理は良くないわ。暫く休んでみたらどうかしら。カレルレンに送らせ……。


−カレルレン− これでも昔は相当悪どい事をやって過ごしていた時もあった。手当たり次第にかみついて ……周りはみな私を恐れた。……仲間ですらな。怯えた視線の中で生きていたよ。だが彼女だけは私を 恐れなかった。彼女は笑った。安らぎ……。それを教え、与えてくれたのが彼女だった……。 彼女は私に人としての生き方を教えてくれたんだ……。


−カレルレン− 何をしている、ラカン?

−ラカン− カレルレンか……。絵を…肖像画を描くのをやめようかと…。

−カレルレン− なぜ……やめる?

−ラカン− こんな状況だしね。もう絵を描いていられる場合じゃない。いずれ彼女も戦線に立たねばならなくなる。だから……。

−カレルレン− 本当にそれだけか?

−ラカン− …………。

−カレルレン− ラカン……?

−ラカン− ……俺は彼女の笑顔が辛い。彼女が微笑みかけてくれればくれる程、俺は……自分が小さな存在に思えてならない。 心の中が”カラッポ”な存在。絵を描くこと以外、なんの取り柄もない俺……。そんな俺にも分け隔てなく彼女は接してくれる。 ますます俺は自分が小さなものに感じられる。最初はこんな気持ちじゃなかった。一分、一秒でも長く絵を描いていたかった。 いちまでもこの絵を描き続けていたかった。だけど、だめだ。絵が完成に近づくに連れて、俺の中の”カラッポ”な部分が 筆に出てくるんだ。俺は彼女のありのままの姿を描かなきゃならないのに……。でも……この絵は……俺自身だ……。 そこにカラッポの俺がいる。だから……やめる。

−カレルレン− お前自身……? お前は逃げているだけだ! 微笑むソフィア様のその眼差しに耐えられないんだ。 肖像画を描くことによって、己の内面の空疎さと、彼女の内面の豊かさとの隙間に気付き、それが埋められなくなった。 だから描くのをやめるんだ。お前は彼女を拒絶している! かといって離れる決心もつかない。なのになぜ彼女はお前に微笑む!? 気持ちを受け止められない、受け止める気もないのに…なぜだ! 私ならそれを…その気持ちを……。



−カレルレン− あなたは自分を粗末にし過ぎる! どうしてもっと自分を大切にしないんだっ!



−ロニ− ……これって、彼女の表情そのまんま?

−ラカン− ああ……。傍目には……ね……。

−ロニ− 微笑みねぇ……そうかなぁ……。彼女が普段僕等に見せてくれる笑顔と、この絵の彼女の笑顔とはどこか違う気がするんだけどなぁ。 たしかにラカンの心情って奴が入ってることは入ってるんだろうが、でも……人前でここまで自分の内面を吐露する様な表情<かお>したことないと思うよ、彼女。 こんな素晴らしい表情のソフィアを描いていながらなぜやめるなんて言うんだ?

−ラカン− ……素晴らしい? よしてくれよ。そんな絵…ちっとも……。

−ロニ− ラカン、君は自分の事をカラッポだと言う。ならばなぜ僕等と行動を共にする? 僕等のしてきたことは単なる人助けとは違う。 自由を勝ち取る為の戦いだ。何度も命を失おうって危険にさらされてきた。心に何もない人間に出来ることじゃない。……違うかい?

−ラカン− 買いかぶり過ぎだよ、ロニ。何かしていれば……体を動かしていれば、自分が虚ろだということを気にしないで済む。 もともと存在自体が虚ろなんだ。死んだってかまやしない……それだけさ……。

−ロニ− 相変わらず暗いなぁ、ラカン……。それに嘘をついている。

−ラカン− …………。

−ロニ− 単に君は自分の感情を表現するのが下手なだけだ。カラッポなんかじゃない。そのことを彼女は知っている。だから君だけに本当の微笑みを見せるんだよ。

−ラカン− 俺には彼女の微笑みを受ける資格なんてない。彼女は人々の希望だ。支えなんだ。成さなければならない事が沢山ある。 一介の絵描きである俺一人の為に心を開いてくれる訳が……。

−レネ− 兄貴ーっ! 兄貴ーっ! なんだよ兄貴、こんな所にいたのか。

−ロニ− どうした?

−ゼファー− シェバトの長老会議の決定が出ました。私達は明日ソイレントに出発です。

−ロニ− ソイレントだって!? あそこはソラリスに……。

−レネ− そうだ。それと、ソフィアも同行することになった。

−カレルレン− 馬鹿な! これだけ難民が増えているというのに、ソフィア様がニサンを離れることなど出来るわけがない! その上、ソイレントに行くなんて無茶だ! 危険過ぎる! 長老会議は何を考えているのだ!

−ゼファー− いえ、そうではありません。これはソフィア個人の意志なのです。彼女自ら進んで願い出たことらしいのです。

−カレルレン− そんな……何をお考えになっておられるのだ。

−レネ− 最初は俺達だけで、って話らしかったんだが……。

−カレルレン− 私達だけ……。

−ラカン− …………。