―― 勝手なことを……。ラムサスの任はイグニスに眠る"アニマの器"の発掘とラムズの監視であったはず。それを……。
―― "アニマの器"はいつでも回収できる。それより、転移した船には"奴"が乗っていたことが判明しておる。ラムサスはそれを追ったのであろう?
―― トラウマ、か。
―― 否。この場合はニグレト……陰性外傷だろう。
―― メモリーキューブからの情報によれば"奴"の周囲には"アニムス"となり得る因子を持つ者が複数存在しているらしい。
―― M計画対象者<スファラディー>では無くか?
―― ああ。
―― 偶然か?
―― 否、それにしては多過ぎる。"奴"に引き付けられたか……。
―― 図らずも500年前と同じ様相を呈してきたか。
―― あの男がそうなる様に仕向けた可能性も無いではない。
―― 転移先はアクヴィ……タムズの近くだったな。
―― アクヴィならばカレルレンが向かうそうだ。
―― カレルレン? 直々にか? なにゆえに?
―― 見つかったのだそうだ。4000年の長きに渡り奴が探し続けていたゼボイムの遺産がな。
―― 遺産……という事は、以前奴が話していた技術か?
−天帝カイン− そうだ。分子工学……ナノテクノロジー創世の地、ゼボイム文明の首都がアクヴィの海底下に眠っていたのだ。19年もの間、その存在は『教会』によって秘められていたがな。
―― よいのか? カイン。
−天帝カイン− ああ、まだ暫くは保つ。
―― 19年…ちょうどアクヴィの大地殻変動の年と重なるな……。
―― 成る程。
―― しかし、解せぬ。その技術、さほど重要なものとも思えぬが……。
―― 奴とてラムズ。あまり勝手にさせるのもどうかと思うぞ。
―― あれには何を考えているのか解らぬ所があるからな。
−天帝カイン− よい。その件は、私が責任を持とう。ところで……。お前達……"消すつもり"であったのか?
―― 何、偶然だよ。
―― 場所がイグニスだ。蓋然とも言える。
―― それに、あの程度で消せるなどとは思ってはおらぬ。
―― 粛清そのものも失敗に終わった。今後はなかろう。
―― "アニムス"が集まっているのであれば尚更、だな。
―― うむ。
―― カインよ。何故そこまでこだわる? 我等にとって、何ら利のない"奴"に……。
―― 毒になりこそすれ、薬になることは有り得ぬのだぞ。
―― "アーネンエルベ"……未だ信じている訳ではあるまい?
―― そんなものは幻想だよ。理想ですらない。
―― 結果は……この姿。見ての通りだ。
―― それとも……忘却の彼方に葬り去った"想い"からか?
−天帝カイン− ……。
―― カイン。我等が"神"なのだ。