本当に与太(ヨタ)話です
――――― 第3章 ―――――
聖女(マリア)の寝所へ至る道―――――
羅針盤は、無常にもその行く末を指し示し続ける
彼らが何をあがこうと、古来より繰り返されてきた終末へと
バージルを守護(まも)る異形のもの。いや、これはバージル自身?
「へっ 流石にコレだけの数は
捌ききれねぇか」
そのバージルの姿に戸惑うシオン。
「中尉―――貴方は確かに死んだはず。なのに―――」
「どうしてここに居るのかってかぁ。
生きてるか。死んでるか。
そんなもんは、さして重要な事じゃない。」
バージルはあごをあげ、不遜な態度で笑った。
「もっとも お前らの頭じゃ、
理解は出来ないだろうけどな。」
カチンッ!
最後の言葉が、ただでさえ“ささくれ立ってる”シオンの癇(かん)に障(さわ)った。
「全ては“観測の問題”とでもいうの?」
「まあ、そういうことだな。」
「じゃあ、今から証明して見せてよっ! KOS−MOS手伝って。」
「……了解しました。」
ふんぎゃっ!!
シオンの命を受けたKOS−MOSは、電光石火の勢いでバージルをふん縛ると、
どっから取り出したのかバージルが入るくらいの箱に入れ、
ついでに放射性物質のラジウム、粒子検出器、青酸ガスの発生装置もその中に放り込んだ。
「シオン。これはかつての時代に、“シュレーディンガーの猫”と呼ばれた有名な
実験装置のようだと推察されますが。」
「ええそうよ。“観測問題”と言えば、やっぱりコレでしょ(笑)。」
「おい待てよ、シオン。シュレーディンガーの方程式は俺も知っているけどさぁ。
シュレーディンガーの猫って何だよ?」
「はるか昔に聞いたことがある。Jr.。量子力学の創成期、その学者が提唱した
パラドックスだ。」とジギー。
「その通りです、ジギー。」M.O.M.O.が答えた。
「データベースによると、量子は0や1などの不連続なエネルギー値しか
取りません。しかし、ある状態において0.5という値を取ったとき、その状態とは
“一体何か?”という論議をかもし出しました。これを0と1の半分ではなく、
“0と1が同じ場所に同居(両立)している=0と1の重ね合わせ”とした説の矛盾を、
分かりやすく示すために考え出されたパラドックスのようです。」
「おい、M.O.M.O.。理論は分かったけど、これがそのご大層なパラドックスと何の関係があるんだよ。
説明してくれ。」Jr.が“訳が分からん”と両手を広げ肩をそびやかした。
「はい、Jr.さん。」M.O.M.O.が続ける。
「もしも、この箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これを検出器が感知して、
その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、猫は死ぬと考えられます。
でも、アルファ粒子が出なければ検出器は作動せず、猫は生きていると考えられます。
そこで、仮に1時間でアルファ粒子が出る確率が50%だとして、この箱の蓋を閉めて
1時間放置したとします。1時間後、猫は生きているのか、それとも死んでいるのか。
蓋を開けるまでは、それが誰にも分かりません。蓋を開けたら、それが決定されます。
それでは、蓋を開ける前は、はたして猫は生きている状態と死んでいる状態の重ね合わせ
なのか? そういうパラドックスです。」
「そりゃ、生きているか、死んでいるか、どっちかだろ? 普通は。」
「そうです。けれども、ラジウムのアルファ粒子の存在は、
観測するまで分かりません。当時は粒子の存在を観測する術がなかったんです。
なので、観測するまでは、ラジウムがアルファ粒子が
“存在する=1”“存在しない=0”が両立する(=重ね合わせ)状態であると
考えた説がありました。
なので、もしも、ラジウムがアルファ粒子が
“存在する=1”“存在しない=0”が両立する(=重ね合わせ)状態である。
……としたら、その結果生ずる猫の生死もまた、観測するまでは
“生きてる=1”“死んでる=0”が両立する(=重ね合わせ)状態であることになるのです。」
「そりゃ、すっげー矛盾する状態じゃねーかよ。猫が生きてて、けれど死んでるなんて。
まるで“幽霊”じゃねぇか。」
Jr.は呆れ顔。
「そうよ、Jr.くん。……KOS−MOS、何分経った?」
「おおよそ、3分30秒です。」
「じゃあ、箱を開けるわよ。中尉が生きているか、死んでいるか、それとも
生と死の重ね合わせの状態なのか、観測時にそれは決定する。これで全て分かるわ。」
シオンの声には、期待を含んだ科学者らしい響きがあった。……鬼(笑)!
「……ですが、シオン。この論争にはすでに終止符が打たれています。
それに、あなたのこの行動には根本的に問題があります。」
「どういうこと? KOS−MOS、説明して。」
「あなたの“観測問題”の解釈に間違いがあることと……。」
パカン!
蓋が開く。
「……バージルはとても怒っている、ということです。」
「きぃ〜 さぁ〜 まぁ〜 らぁ〜!!」
きゃあーっ!!!!!!!
――― Game Over!! ―――
シオンたちは全滅してしまった。
「ちぃっ。ちょっとやりすぎちまったか。」
「おい、何をやってるんだよ。相棒。」
シオン達の前で嘆くバージル。そのバージルの背後に現れる白い“亡霊(テスタメント)”。
「おかげで、俺の出番が無くなっちまったぜぇ。“兄弟”との涙と感動の対面をよぉ。
お前の役目は“お姫様のつゆ払い”なんだぜ。こいつらを全滅させてどうするんだよ。」
今度は紅いテスタメントが現れ、こともなげに言った。
「大丈夫だ、問題はない。また、あの方が少し前から、彼女達の時間をやり直すだろう。」
「またかよ。これで何度目だ(爆)。」
(ついでに、“あの人”の解釈にも間違いがあるかも……(^_^;) )
あとがき:
みなさーん。お願いですから、ついてきてくださーい(爆)!
モモの長い台詞で“めまい”がした方へ。(^^)
ようは、シオンの好奇心の犠牲になったバージルが、ぶち切れて
ゲームをぶち壊してしまう。それを毎回、テスタメントの親玉ヴィルが修正している、という話です。
ヴィルヘルムは実は大変なのさ。(^^ゞ
モモの台詞は短くする予定でしたけど、あまりにも私たちの考え方とかけ離れた説だったので、
説明に文字数を取られてしまいました(汗)。だから、ギャグとしてはバランスが悪い……(笑)。
ゼノサーガで「EPRパラドックス」を扱ってるんで、「これって何?」と調べているうちに
「シュレーディンガーの猫」にぶち当たったんです。で、読んでいる時にバージルの
「生きてるか。死んでるか。そんなもんは、さして重要な事じゃない。」という台詞が
頭をよぎって、“おもしれー”と吹き出し、話は完成!!
……ハタから見ると、絶対にヘンな人。(*^^)v
んで、やっぱり“聖なる乙女”の従者は、“青ひげ(ジル・○・○○)”でなきゃ
いけなかったんでしょうかねぇ? つゆ払いの台詞がそこまで引っ掛けてたとしたら、
すんごいんだけど(笑)。どーだろーねぇ。
それにしても、ペロー童話って……“眠り姫”の続きといい……(苦笑)。