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少年期

ご注意:この話は、ゲームの設定を完全に無視しているので、鵜呑みにしないでくださいね  



「最近、あの子の様子がおかしいの。」突然、アオイが言い出した。
「うん?」
「私に対して、妙によそよそしいというか……。」

アオイの思いつめた物言いに対して、スオウがそっと返す。
「あいつも、今12だ。その年頃は親に食って掛かってばかりいる。そういうものだ。」
「いえ、ちょっと違うの。あの子の“礼儀正しさ”は前と変わらないわ。 でも、何かが違うの。」

しばらく考え込んだアオイが、ポツリと言った。
「時々、急に出かけたと思ったら、顔を腫らして帰ってくるし……。」





ああ……ムシャクシャする。あいつらのことを考えるだけで。

ベキッ!!
ジンは右手でクルクルと、もてあそんでいたペン型端末を、無意識に指でへし折った。
すでにこれで3本目だ。それでも、ジンのこのイライラは治まらなかった。

「くそっ。」
ジンは折れた端末を床にたたきつけた。彼自身も、この感情がどこから来るのか、 分かっていなかった。だから、彼は尚更イライラしているのだ。

前はこんなことはなかった。“成長”と呼ばれる、この強烈な“目覚め”は、 ジンの心と身体をはっきりと蝕んでいた。



「ジン。どこに行くの? こんな夜遅くに。」
そっと玄関を開けたジンの背後に、アオイとスオウが立っていた。
「ちょっと出かけてきます。」
「おいっ。、ジン。」
こいつらの顔は見たくない――。

振り向きもせず、ジンは外に出て行った。





夜の帳(とばり)、街の郊外
治安の悪さでは有名なブロック

わーーっ。
「くそ、覚えていろ!」
捨て台詞を残して、少年たちは逃げ去っていった。

公園の中に一人残されたジンは、口角を右手の甲でぬぐい取り、付いた自分の血を 見つめた。

まだ、だ。
まだ、足りない。
このままでは帰れない

ジンは血の付いた拳(こぶし)を握り締めた。

エモノ。
次の、獲物だ。
誰でもいい。
次の、獲物だ。

「ジン!」
急に自分のファーストネームを呼ばれ、ジンは驚いてその声の主の顔を見る。

「…お、おじいさん…。」
彼の祖父、オウガが公園の入り口近くに立っていた。
「こんなところで大暴れするなど、どこぞの大馬鹿者かと思えば、ジン。お前か。」
ぷい、とジンは不機嫌な顔で横を向いた。

フフン
「その様子では、まだ、暴れ足りないと見える――。」ジンの態度に、オウガは鼻で笑った。
「――お前さえよければ、ワシが相手になろうぞ。否、ワシでなければ、お前の相手は務まらなぬであろう。」
「おじいさんが?」
流石に躊躇しているジンに対して、オウガは言い放った。
「これでも、伊達に武術は教えておらぬ。さあ、かかって来い。ジン。」

エモノ……。
ギュッ、ジンは拳を握り締めた。

うおぉぉぉぉぉっ
言葉にならない声を上げ、オウガに飛び掛るジン。
――誰だって構うものか――
彼は、このイライラ――焦燥――さえ晴らせれば、この湧き上がる衝動をぶつける相手は、誰でも良かったのである。

ガシッ!
オウガはジンの拳を左腕で軽く撥ね上げた。しかしその力は強く、まだ少年であるジンの身体まで撥ね飛んだ。
「ふむ。全くなってない。隙だらけじゃな。」
ジンの動きには、“自分を護る”という面を全く併せ持っていなかったのである。

むっくりと起き上がると、ジンは再びオウガの飛び掛った。
身体で覚えた喧嘩術。湧き上がる衝動。カンと体力任せの“捨て身”とも思える動き。全く持ってクレイジーである。
ジンは、一部の少年たちの間で密かに「狂犬」と呼ばれていることを知らなかった。

しかし、所詮、オウガの相手になるわけでもなく……。

何度も何度も、ジンはオウガに軽くあしらわれる。それでも、ジンは立ち上がった。身体中がアザと擦り傷だらけになりながら。
オウガはやろうと思えば、ジンが立ち上がれぬ様に、造作なく拳を放つこともできたが、 それをあえてしなかった。あくまで、受け流すだけに徹した。二人の間にそれだけの実力差があり、なおかつ、オウガは、たまりに溜まり、 ついに爆発してしまったジンのこの衝動を、出し切ってやりたかったのである。

はぁはぁはぁ……
ついに、ジンは仰向けになり、肩で激しく息をしていた。
「どうじゃ、ジン。お前の気は晴れたか?」近寄るオウガ。
「……は…い…。」肩で息をしながら、ようやく返事をしたジン。
「その顔では家には帰れぬだろう。しばらく、ワシの家に来い。それに、お前も家に居られぬ理由があろう。“暴れずにはおらねぬ理由”が。」





「ああ、私だ。……そうか。それならば、好きなだけそちらにいるがいい。学校へは、そちらから通え。 ……母さんには、私から言っておく。そうか、分かった。」

「誰からなの?」
アオイが、通信を切ったスオウに、すかさず聞いた。
「ジンからだ。しばらく、祖父の所にいると言っていた。お前に、すいません、と 謝っていたぞ。」
「……そう、なの……。」アオイの表情が少し暗くなった。

実は“狂犬”の噂は、少し前からスオウの耳にも入っていた。少年の年齢と身体的特徴から、 その少年はジンのことだと察しが付いていた。と、同時にアオイが、ジンの内面の変化に薄々気づき、 心の底から心配していることも。悩んだスオウは、長いこと頭を下げたことの無い父――オウガ――に ジンのことを頼むと託していたのであった。“狂犬”の生け捕りと、その後の事を。ジンの性格上、 親には何も話さないであろうことは予想がつく。だからこそ、祖父に彼を頼んだのだ。

そう、あの時、オウガが通りかかったのは偶然ではなかったのだ。“狂犬”の情報から、 ジンの行きそうな場所を洗い出し、オウガはそこで待ち伏せをしていた。全ては、 スオウとオウガが予め打ち合わせていた筋書き通りだったのだ。
ジンの表情はいつも通りだったが、その顔には腫れとアザがあった。相当暴れたのだろう。 アオイが心配するのも無理は無いな、とスオウは思った。


――ジンは不器用なのだ。自分を誤魔化す術すら知らない――



「どうじゃ、連絡はついたか。」
「はい。しばらく、こちらでお世話になります。よろしくお願いします。」

オウガに対して、ジンは礼儀正しく深々と頭を下げた。先ほどの彼のクレイジーぶりとは 雲泥の差である。それほどまでに、彼は引き裂かれ苦しんでいるのだ。





翌日
「あの子の衣類と身の回りの物を持ってきました。」
「自分で生んだ子でもないのに、とてもジンによくしてくれる。そなたには感謝している。」
オウガはアオイに頭を下げた。いかにも武道家らしい礼。

「あの……。あの子の様子は?」
「今は会わせる訳には行かぬが、ここに来た当初に比べれば、ずっと落ち着いておる。 あれの苦しみは、あれ自身にしか分からぬ。自分の中での決着が付けば、 そのうち自分から帰ると言い出すだろう。あれはそういう奴だ。それまでは、 ずっと見守るしかない。そなたも辛いだろうが、待っていてくれるか?」
「はい。」

アオイは、丁寧に頭を下げて帰っていった。
「あの子をよろしくお願いします。」


女には分からぬだろう。アオイが帰った後、オウガはため息をついた。

異様な気配に振り向くと、部屋の戸口付近にジンが立っていた。
「ジン。」
アオイの姿を見かけてしまったらしい。今朝は落ち着いていたジンの様子が一変していた。

やはり、そうか。

彼の周囲の空気が刺々しい。早く吐き出させる方法を与えないと、また“獲物”を 探し求めて出て行くだろう。
「ジン。庭に出て“形(かた)”をやってみろ。久しぶりにワシが見てやろう。」

思いもよらない祖父の言葉に、戸惑いを隠せないままジンは借りた稽古着に着替え庭に出た。
まだジンの身体が小さく病弱だった頃、心身を鍛えるために教えたことがあった。 通い続けるうちに、ジンは健康を取り戻し丈夫になっていった。



「ふむ。だいぶ崩れているな。」ジンが久しぶりに行う形を見て、オウガは言った。

あくまでカラテの形である。基本動作だけであり、実戦には到底耐えられるものではない。 が、今行っているジンのそれは明らかに違っていた。防御の部分は滅茶苦茶、しかし、 突きなどの攻撃部分は異様な鋭さを放っていた。全身のバランスを崩してまで、 力を一点に集中させる。まともに食らったのならば、なまじっかの者では一撃で倒れるだろう。 ただし、食らったらの話である。ジンの動きに「次」がない。致命的だ。その分、動作は非常に速い。 それで致命的欠点を今まで補ってきたのだろう。

「よし、それまで。」
「ありがとうございました。」
ジンの息はあまり上がっていない――そのことだけでも、どれだけ“実戦”を積んできたか想像がつく。
昨夜の根競べも、ジンが根を上げるまでに異様に時間がかかった。このままジンを放置していたのならば、 いつかは人を危めていたかも知れない。

ハッ!
不意に、オウガはジンの顔に向かって拳を放った。あくまで軽くだが。
ジンはそれを大きく避けた。それは紙一重とは言い難く、彼には無駄な動きが多かった。
「おじいさん…。」
戸惑うジンの瞳に、オウガは言った。

「ジン……。武は戦うためにあらず。他者と己が身を守るためにある。」





数日後

ジンはオウガから指導を受け、心身を鍛えなおすため稽古をしていた。
毎日くたくたになるまで指導は続いた。その指導の意味をジン自身は知らなかったが。
この日も、ジンは形の稽古をしていた。

――この気配は?――

強い、とつてもなく強い。今まで味わったことがないほどの。
まるで蜜の香りに吸い寄せられる蝶のように、ジンは、つわものだけが持つ独特の気配に 呼び寄せられた。

――あいつだ――

道場で素振りをする剣士の中に、背の一際(ひときわ)高い青年がいた。 年のころは二十歳(はたち)過ぎ。軽く適当に流している連中に比べ、まるで何かを 切り裂くような素振り。
その鋭さは、たとえ竹刀であっても、人を死に至らしめることが出来るのではないかと 思われた。すっと上がり、一気に振り下ろされ、腕の動きと共にピタッと止まる。 身体と竹刀の軸は全くぶれることがない。ジンは彼の竹刀の動きに魅入られた。

青年はほどなく、じっと見つめるジンの視線に気がついた。
青年は素振りをやめ、近くにいるオウガに話しかけた。
「師匠。あの少年は何者ですか?」

オウガは、青年の視線の先にジンを見つけた。

「あれが何かあったのか?」
「いえ、何も。ただ……あの瞳にただならぬものを感じたので。」
「ほう。お前にも分かるのか。」
「どういう意味ですか?」
「……。」オウガは黙りこくった。

「師匠。久しぶりに稽古を付けていただきたいのですが。」
「いいだろう。」話題を変えた青年の申し出を、オウガはすんなり受けた。



――お願いします――

稽古着に竹刀。もちろん防具は付けない。二人の気迫がぶつかり合う。
はぁっ!
はぁぁーっ!
竹刀を構え、掛け声を掛け、距離を置いてにらみ合う二人。一方が進み寄ると、 一方が摺り足で下がる。一方が一歩横に進むと、もう一方が反対へ回り進む。 二人とも竹刀は動かさない。お互い、少しずつ歩を進めながら隙と間合いを 計っているのだ。
素振りをしていた連中も、いつしか二人の稽古の迫力に飲まれ、見入っていた。

青年が先に動いた。

ガッ!
バシバシバシッ!
竹刀の切っ先が複雑に何度も交差する。もはや常人には見切れないほどの、 細かくすばやい剣先の動き。お互い最初の一手を封じあっているのである。 剣先の弾かれ方――否、剣先を思わぬ方向に導かれ、完全に封じられてしまうと、 そのまま「本物の一撃」を打たれる。だから、心理戦。相手の手の内の読みあい。 お互い表情は全く動かさない。――潜まる空気――

ジンも二人のこの稽古を息を呑んで見つめていた。いつしか、瞳に二人の動きが 焼き付けられ、次に二人がどう動くのかが頭の中にひらめくようになっていた。 あくまで、それはジンの無意識の中の出来事なのだが。

――あっ――

ジンには、青年の剣先がほんの少しだけ左下――青年にとって予想外の方向へ 封じられたように、見えた。
バシン!
青年が立て直す間を与えずに、オウガの竹刀が胴に決まった。

「ありがとうございました。」青年が向き直り、頭を下げた。
「マーグリス。腕を上げたな。」
オウガの安堵と感嘆の入り混じった表情。
ジンはここ何日も道場に入り込んで、祖父が弟子達に様々な種類の武術を教えているのを 見てきた。しかし、今日初めて、ジンは祖父がそんな表情をするのを見た。

それだけ、あいつは強いのか。“マーグリス”、この名前はジンの胸に 深く刻み込まれた。

キッ!
ジンは自分をにらみつけているオウガに気づき、道場を後にした。



強い、とつてもなく強い。
先ほどの立会い稽古が頭から離れなかった。

ベキッ

道場の外近くの小枝をへし折り、ジンは見よう見まねで小枝を振ってみた。 自分でも子供っぽいことは分かっているが、せずにはおれなかったのである。

“おい、お前”

振り向くと、先ほどの青年が立っていた。先ほどまで、ゆらゆらと陽炎の様に 彼から立ちのぼっていたつわものの気配はすっかり消えていた。
青年――マーグリス――は、すぐそばの階段に腰を下ろした。

「お前、名前は?」
ジンは、慌てて小枝を自分の後ろに隠す。
「……ジン。」
「ジンという名か。前にここに通っていた時には……いなかったと思うが、最近、 通い始めたのか?」
マーグリスの問いに、ジンは頭(かぶり)を振った。
「俺は今、休暇中だ。休暇の間だけここに通っている。しばらくは ここに通うつもりだ。」

マーグリスは自分の竹刀をジンの方に差し出した。
「ジン、使ってみろ。そんな小枝よりはいいだろう。」

隠し持っていた小枝を捨て、手渡された竹刀を持ってみる……思っていたよりも ずっと重い。マーグリスは、まるで棒切れのように軽々と振っていたのに。
とりあえずは両手で握って、見たままに振ってみる……ただ持っていた時よりも、 さらに重い。手の中で竹刀が落ち着かない。竹刀の重さと、ついた勢いに 翻弄されるのだ。スッポ抜けないようにするのが、ジンには精一杯だった。 たったそれだけで、ジンの息が上がった。

「ジン! マーグリス! そこで何をしておるっ。」

オウガが戸口付近に立っていた。
「ジン。お前の稽古はどうしたのだ。」
慌てて立ち去るジンの後姿を見送ったあと、オウガが口を開いた。

「……マーグリス。あれに剣を持たせてはならぬ。」



ジンは言われたとおり稽古の続きを始めた。しかし、先ほど受けた衝撃から 逃れられなかった。つわもの同士が発する気のぶつかり合い。研ぎ澄まされる神経。 湖面のように静かでありながら、ゾクゾクするような高揚感。相手の手の内と心理の 読みあい。そして、一気にたたみ掛け、一瞬で決まる勝負。ジンはその中に求める 何かを見つけたような気がした。
ジンが夢中になるのも無理はない。現在、ジンは組み手稽古さえさせてもらえないのだ。 “まだ早い”オウガのその一言で。



次の日

ジンは初めて学校をサボった。行きたくなかったのだ。ジンは道場近くを ブラブラしていた。マーグリスが稽古に来るのをずっと待つために。もちろん、 オウガに見つからないように気を配ってはいたが。
「来ないなぁ……。」
背伸びをして高窓から道場を覗き見していると――。

「おいっ。」
ビクッ!
ジンは驚きのあまり飛び上がった。オウガは今道場の中にいるので、誰かに 見つかるなんて思ってもいなかったからだ。
声の主はマーグリスだった。
「お前、この時間は学校じゃないのか?」
コクリ、ジンは頷いた。

「……サボったのか……。」マーグリスのため息が混じっていた。

ジンは、そのため息に居ても立ってもいられなくなり、その場から走って逃げようとした。 すると、マーグリスに首根っこを掴まれて捕まってしまった。

「まあ、座れ。」

あとがき:
中途半端ですいませ〜ん。<(_ _)>
色々とあってほんとーに中途半端です。 何故か、だんだん例の男(爆)がいい人になりつつあります。(苦笑)
このまんまじゃ、どっちが重要人物か分からなくなるかも(汗)。 もちろん、こっちも重要人物なんですが……(^^ゞ。

とりあえず、例の男(爆)とのファーストインプレッションまでです(笑)。
まさか、髪の毛ピンクとは書けなくて、かなり困りました。(^^ゞ
髪の色はピンクと言った時点で全てがギャグになってしまいそうな……。

すいませ〜ん(汗)。続いちゃいます。
ジン12〜13歳頃のお話。簡単に言っちゃうと反抗期−−第二次成長期の話です。
ただ、私自身はっきりとした反抗期つーもんがなかったんで、 どんなもんかよくわかりません。特に男の子の場合。ただ、雰囲気がすごく怖くって 嫌だった覚えはあります。小中学生時代。
ジンが暴れているのはそのせいです。もちろん、もう一つヒミツがあるんですが。 それは、そのうちお話で明かします(笑)。もちろん、身内の男性陣は なんとなく察しがついていて、分かってないのはアオイだけ(爆)。 まあ、そんなもんでしょう。世の中。(^^ゞ

暴れているイメージは、EP3のエンディングの鬼気迫るあんな感じです。
ありゃ、ジンの本性ではないかと(苦笑)。そーゆー解釈ですわ。
続きを書いたら、また足していきます。
例のごとく、ラストだけは書いてあるのですが。(^^ゞ