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シオンが帰らない理由

 



「ただいま〜。」
「お帰り。シオン。」
「……て、兄さん! この家の惨状は何?!」
シオンが驚くのも無理はない。家はゴミ屋敷もビックリの状態である。 よく近所から苦情が出ないものだ。

「いやぁ。冷蔵庫の調子が悪くて、そうこうしているうちに、 こうなってしまってね。」
「…そうじゃないでしょ! 兄さん、元々食事なんて作らないじゃない。 とりあえず食べられればいいって。だから冷蔵庫の必要なんてないでしょう。」
シオンの怒りは絶好調。帰ってきて早々これかい。

「それに……、これ食事のゴミじゃあないじゃない。」
散らかっているのは、山のような古本とそれを包装していたと思われる大量の包装クズ。 この時代古本は貴重なので、包装も厳重、やたらとご丁寧なのだ。
ゆえに、ゴミも大量に出る。

「いくら家が広いからって……、こんなことをしていたらすぐに狭くなるわよっ!」
実際この惨状で、ジンはどこに寝ていたのだろう。
「これから、古書店を開こうと思ってね。仕入れた古書の整理をしようとしていたら、 つい読みふけってしまってね。」
30過ぎてもこれかいっ。この男は……。

すっとぼけたジンの返事に、シオンは身体が怒りで震えだすのを止められなかった。
「いっつも、いつも、片付けは私の役目じゃないのっ!」
「まぁまぁ、シオン、抑えて抑えて。冷蔵庫が壊れたのは本当の話だから。 家の片付けは私がやるから、シオンは冷蔵庫のほうを。」
「……直せばいいんでしょ。いくら私が技術者だからって、便利屋代わりに使わないでよ……。」



見てみると、電源は入っているが冷蔵庫の中は全く冷えていない。
一応、中に入れていた食べ物を処分する、という発想はあの兄にもあったらしい。 冷蔵庫の中身はすっかり空にされていた。

電源を落としてから、再立ち上げをしてみる。起動モーター音はするが、 そのモーター音はすぐに途切れてしまう。
「これは、本当におかしいわね。」
冷蔵庫の裏のパネルを外してみると、なにやらエラー表示がされている。

シオンは表示を覗(のぞ)き込んだ。
「なになに……コンプレッサー起動エラー? えっと、コンプレッサーが異常? ……兄さん、 コレもうだめよ。心臓部がイカれてしまってるわ。買いなおさないと。」
兄からの返事がない。

「兄さん?」
兄の姿がない。部屋の中はすっかり空っぽになっていた。
「……にいさん……。」
兄を探してシオンが庭に出てみると……?



「兄さんっ!」
兄は縁側と庭に運んだ“だけ”のゴミと古本を前に、また、夢中になって本を読んでいた。
「兄さん! 兄さんって人はっ!」



シオンが実家に寄り付かなくなったのは、この時からである。

……という嘘っぱちの話(笑)。

あとがき:
さくっと書いたアホ話。ジンとシオンのコンビは、どうしてもこのノリになってしまいます(苦笑)。
ジンは“始末上手”なイメージがあるので、あんまり散らかす人とは思えないんですけど。 それだけ本に夢中だった、ということです。
この文章の仮ファイル名は「冷蔵庫ジン.txt」でした。この方がインパクトありましたね。(^^ゞ
ファイル名を見るたびに、早く仕上げなきゃ、という気にさせてくれたので。
あ、冷蔵庫が壊れたのは本当の話。故障の症状もこんな感じでした。 一応、復帰するか努力はしてみたのよ。そして、コンプレッサーうんぬんは、そのときの 修理担当者が言った話です。買いなおしは高かったよ〜(涙)。
あと、技術者だからって冷蔵庫は直せません(笑)。現に、うちのお兄ちゃんはその手の職業ですが(笑)。