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アレンくんのプレゼント



“24時を過ぎても姿を表さない待ち人を、ずっと待ち焦がれる心境”を綴ったクリスマスソングが、 店内に流れている。


「はぁ、それでも恋人がいる人はいいよなぁ……。」
アレンはガックリと肩を落としていた。

目の前には、カップルが一組、二組……というか、ほどんどが男女の二人連れ。 時々同姓の恋人同士も見受けられる。

“うーくんの携帯ストラップ”
彼女がうーくんが好きだってことは、本人から聞いている。
ただ、彼女の心の中には、相思相愛の恋人がいつまでもいるだけで……。



ポンッ!! 背中を叩かれ、アレンは“ガックリ姿勢のまま”振り向いた。

「あれ? 副主任じゃないですかー?」
「あ、わ、わ、わぁー。み、ミユキちゃん? 何でこんな所にいるの!?」
裏返った声で、思わず飛び上がるアレン。

「そりゃ、クリスマス前ですから。プレゼントを買いに来たに決まってるじゃないですかぁ。 この季節に、他に何の用事があるっていうんですか?」
冷静に返事をしつつ、アレンの慌てぶりに、イタズラっぽい笑顔を浮かべるミユキ。
じりじりとアレンに“にじり寄って”くる。
「あ〜、ふくしゅにーーん。シオン先輩へのプレゼントですかぁ〜? この店、 最新流行のアクセサリーが豊富で、一番人気ですもんね。副主任も隅に置けませんねぇ。」

アレンは、しばらく黙った後、どこか遠くを見るようにして口を開いた。
「……そんなんじゃないよ……。」
「……?……。」

「主任には、少しでも元気になって欲しい。過去ではなく今を生きて欲しい。それだけさ。」

「? 副主任、何を言ってるんですかぁ。先輩はいつも元気いっぱいですよ? プロジェクトに 起きたどんな問題にも、あの持ち前の笑顔で、きっぱりとテキパキ片付けていっているじゃないですか。 私、そういう先輩を尊敬してますぅ。 あの明るさが副主任には、分からないんですか?」と、笑顔で言うミユキ。

ハァ、アレンはため息をついた。いつもギリギリまで張り詰めている仕事の場では、あまり見せない顔。

「……そう、彼女は明るい。明るすぎるんだ……。あまりにも。」
(そうか。誰も彼女の本当の笑顔を知らないんだ、ケビンさんがいた頃の、あの輝くような笑顔を)
アレンはしみじみそう思った。

KOS−MOS開発プロジェクト。
とても神経を消耗する仕事ため、ほんの少しの安らぎを得るために、 誰もが個人使用の機材の周囲に、写真や小物などを置いている。
けれども、彼女は“あの頃の写真”を一切個人ブース内に置かない。
あの頃の話にも一切触れようともしない。彼女の聖域だ。
今の彼女と、あの頃の彼女とは、まるで別人。

そんな彼女を身近で見続けているのは、アレンにとって辛かった。



「副主任〜! そんな顔をしていると、“コクって”も、上手く行くものも 上手く行きませんよぉ。元気出さなきゃ。」
ミユキはアレンの肩を叩いた。
「君はいいよな。いつも元気で。少しはこっちの気持ちも分かってくれよ。」 アレンがうなだれたまま返事を返す。
「……って、誰が告白するって言ったんだよー! そんなんじゃないぞー!」

いつの間にか、ミユキの姿が消えていた。





イブ
いつもの出勤風景も、みんなどことなく、落ち着き無く見える。

今日、明日は、みんな定時退社だろう。
実際、プロジェクトのメンバーの中にも、「フレックス制度」を最大限に活用し、 早めに退社する予定の者もいる。誰とは言わないが……。

ハァ〜。
またもや、アレンはため息をついていた。

その場の勢いで買ってしまったはいいが、みんなの見ている前で渡すわけにもいかず (何しろ勤務時間内)、 いつもいつも、シオンにはタイミングを外されてばかり。 どうしようか、アレンは迷っていた。

“主任〜、僕からのプレゼントです”と渡そうか……いやいや、僕からそんなことは出来ない。
それとも、主任が来る前に、主任の機材のところに置いておこうか……他の連中に見つかったら面倒だし。
主任が帰るときに一緒に帰って、その時に渡そうか……一人とは限らないよなぁ、やっぱり。



「ア・レ・ン・君! おっはよー!」



「わぁ〜っ!! たっ! たっ! ……と、しゅに〜ん!! いきなり、脅かさないで下さいよ。」
シオンにいきなり背中を叩かれ、アレンは前につんのめった。

「あ、ごめんごめん! アレン君の隙だらけの背中を見てたら、つい(笑)」。
「“つい”、じゃないですよ。危ないったら、ありゃしない……。」
「転ばなかったからいいじゃない。上等上等。うん。」
「“上等”じゃないですよ。」
「さ、早く行きましょう! もう、遅いわよ。」シオンが小走りに走っていった。

ふと、時計を見やるアレン。
「うわぁ、ほんとにヤバイ。僕も急がなきゃ!」







定時5分前……

シオンと話すキッカケも掴めぬまま、もうこんな時間である。 ……何やってんだ。

いそいそと、そして、堂々と片付けだす者も出始める。何せ、今日はクリスマスイブ。
アレンも、ゴソゴソと荷物の整理を始めた。……ない!!

「あれ?」アレンは慌てた。
ないっ
無いのだ。
シオンのためのプレゼントが。

「おっかしぃなぁ……。」
いくら探しても見つからない。

「主任! ……とついでに副主任! 今日はクリスマスイブですよ。おっ先に失礼しまーす!」
「誰がついでなんだよ。」
「まあ、いいじゃないですか。クリスマスだし。」
「そう言うお前の頭の中は、年中無休のクリスマスじゃないのか?」
「そんなことは、ご・ざい・ませーん!!」
「じゃあね。メリークリスマス。」
シオンの言葉を受けて、部下達がワイワイと帰っていく……。
それでも見つからない。アレンは焦ってきた。

コンソールを叩きながら、今日の行動を朝から逐一思い出してみる。 少なくとも仕事はしてないが、見た目だけは熱心に仕事をしているように見えるから。 どうにも分からない。朝、きちんと荷物の中に入れたのは覚えている。そこからどうしたのだろう。

「アレン君。みんなが帰っちゃって仕事にならないから、私も帰るわね。 アレン君は忙しそうだから、残っていていいわよ。」シオンも部屋から出た。
……ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ……これが見つかったら……と、 言いきれなかったアレンだった。

ぽつん!
誰もいないプロジェクトルームに一人取り残されたアレン。

「ちくしょー! 何で無いんだよー! おかげで渡しそこなったじゃないかー!」
アレンの言葉が、意味無く部屋の中にこだました。







「おはよぉ…。」“トレードマーク”のガックリ姿勢のまま出社するアレン。
「あら、アレン君にしては珍しく遅かったじゃない。」笑顔で迎えるシオン
「はぁ……そうですね。……昨日も遅かったですから。」
「クリスマスなんだから、そこまでムリしなくても良かったのに。」
結局、プレゼントは見つからず、そのまんま24時過ぎくらいまで仕事をしていたのだ。 家に帰っても寝られるわけも無く……ヤケ酒飲んで寝た結果が この“体たらく(ていたらく)”だったりする。



はぁ〜ぁ〜ぁ……どこに行っちゃったんだろう……。
ため息と“あくび”を交互に連発しながら、仕事をするアレン。

「あれぇ? このコードの参照先が無いわ。アレン君、ここのコードの担当誰だっけ?」
「え? どこですか?」
「ここよ。ここ。」
「あ、そこは確か……けれど、今日は休みにしてますよ。彼。」
「困ったなぁ……とりあえず連絡を取ってみますかネ。出るといいけれど。」
シオンは、おもむろにコネクションギアを取り出した。

……あった!?

アレンは、目が点になった。
見覚えのありすぎる、うーくんストラップ。
確か、昨日はつけていなかったはず。
どうして彼女が今、“うーくんストラップ”を持っているんだろう……。渡してもいないのに。



「……んでね、そう、そうなの……。うん、分かったわ。お休みなのにゴメンね。 ありがとう。」シオンは連絡を切った。

「しゅ、しゅ、主任? それ、買われたんですか?」
アレンは、裏声で聞いた。 驚きすぎて、思わず声が裏返ってしまったのだが(笑)

「あ、これね? ……可愛いでしょう(笑)。ミユキから貰ったの。」
すんごく、嬉しそうに“うーくん”に頬擦りするシオン。うーくんになりたい!
「……ミユキちゃんから?」
「そ、可愛い赤い箱に入ってたの。彼女、何か言ってたみたいだけど……忘れちゃった。」
「それって、もしかして、金色のリボンか何か掛かってませんでした?」
「そうそう、よく知っているじゃないの。もしかしてアレン君、透視能力でもあるの?」
「……何でもありません。ただの偶然です……。」

アレンの落ち込み、さらに倍!!!!!





「ミユキちゃ〜ん。どうして主任に渡しちゃったんだよぉ〜。」
「あ、あれやっぱり副主任のだったんですか? だったらぁ、連絡通路に落っことさないで下さいよ。」
「連絡通路に……?」

あっ! あの時だ!
朝、シオンに背中をどつかれたあの時。はずみで落としたのだろう。 そういえば、あの時、手に持っていたような。

「それで、“主任へ”とだけ書いてあったから、先輩に渡しておいたんですぅ。 “誰からか分からないけど”って言って。先輩、何か言ってましたか?」
「……いや、別に……。今更どーでもいーよ……そんなことは。」
アレンのクリスマスは、見事不発に終わった。

「とぉーっても、喜んでましたよー、先輩。前から欲しかったんだけど、 さすがに主任らしくないかなーって迷ってたの、て言ってました。 せっかくのプレゼントだから是非付けなきゃって、 もっのすごーくステキな笑顔で笑ってましたよぉ。 よかったじゃないですか、副主任。先輩が元気になって。」

(だから、それは俺がやりたかったの!)
もはや、返事をする気力も出ないアレンであった。



アレンがシオンの気持ちを掴むまで、あと何年掛かるのだろう……(笑)。
がんばれ、アレンくん!

あとがき:
アレン君、最後の詰めが甘いとゆーか、こーゆーどこか抜けたイメージがありますネ。 なので、結局渡せなかったクリスマスプレゼントの話(一応シオンの手には渡ってるけど;笑)に しちゃいました。(^^ゞ
ミユキってこういうお茶目なことしそうだし(笑)。
たしか、シオンってEP1でコネクションギアに“うーくん”を付けてましたよね? よく 覚えてないけれど(爆)。それ、勝手にアレン君からの(シオンは知らないけれど) プレゼントにしちゃいました(笑)。では〜。
店内に流れる曲は、ちょっと内容が違っちゃったけど、おおよそ検討が付きますよね(笑)?
24時とか言ってなかったし(歌詞をちゃんと知らなかったため)。それに、 昔のCMのイメージにつられちゃったので(爆)。まあ、いいか。