TOPへ戻る 目次へ戻る

がんばれアレンくん −真夏の夜の夢の巻−

注意! この話は、「ゼノサーガ エピソード3 ツァラトゥストラはかく語りき」を
最後までプレイして、エンディングムービーを全て見ていることが前提となります
クリアするつもりのある方は、クリアするまで「おあずけ」です



 

あの刻から………




海図を持たず、羅針盤も無く、きらめきの息絶えた――――漆黒を進む。

生きぬく哀しみも無く、誕生の喜びも無い、「終焉」の闇の中を――――

ただ――――約束――――のために

――――友の待つ地へ――――




船「エルザ」には、アレンと、アレンに寄り添うシオン。そして――――?




「ふぅ〜」
「大丈夫? アレン、この頃疲れ気味じゃない?」
「シオン。」アレンは優しくシオンを引き寄せた。
「ありがとう。」そして続ける。
「…やっぱり、U.M.N.コラムなし、座標特定パルスなし、大部分の星団が消滅…ともなると、エルザが今どこにいるのか、 どちらに向かっているのか、はっきりしなくてね。エルザの航行記録(航行速度&方向舵)とかつての星系図から、 エルザの現在位置の推測値を割り出してはいるけれど。…この作業が案外神経をすり減らしてね。そのせいかなぁ?」
アレンは片手を頭の後ろに回し、笑った。彼のクセだ。

「それに…。」
「それに?」
「あ、ああ、なんでもない。なんでもない。なんでもないんだよ。」両手を振って、今の言葉を取り消すアレン。

――それに、KOS−MOSから離れたとはいえシオンの命がいつまで続くか分からない。回り道している時間は無い。 少しでもぐずぐずしていると彼女をロスト・エルサレムに連れて行くことができなくなっていまう。 そんなことになったら、僕は――

「アレン?」
「…そういえば最近、精神を集中しているせいなのか、なんとなくロスト・エルサレムの方角が感じ取れる気がするんだよね。 僕にも特殊な力があったのかな? “違う、そちらではない”“こちらの方角だ”と頭の中に声がささやくんだよ。 近頃身体がだるいのはそのせいかなぁ? …しかし、聞き覚えのある声のような…。」
笑うアレンの顔に どことなく生気が感じられない。
まさか、とシオンは思った。

「アレン、今晩部屋に泊めて!」シオンは言った。
「いいですよ。部屋でも何でも――て、え、ええっ? 部屋に?」アレンは飛び上がった。ま、まだ、二人はそんな仲ではない。 もちろん、機会があれば、とその気が無いわけでもないが。心のどこかに“止めておきなさい”という ささやきが響くせいもある。
「ううん。まだそんな気はないわよ。理由は説明はできないけど、とにかく泊めて。お願い、ね。」
がっくり、見て分かるほどアレンははっきりと肩を落とした。しかし、シオンにこのように頼まれた時に アレンは断ったためしが無い。なんだかんだいってベタボレなのだ、彼は。
「…いいよ、都合のよい時間に来るといいから。」
「ありがとう、アレン。じゃ、お願いね。」

にこっ、シオンは微笑んだ。アレンの大好きな笑顔――アレンはニヤニヤ、やに下がった。




その夜。
「眠れないの?」
アレンは、シオンのその問いに答えなかった。あったり前だ、長いこと恋焦がれた女性が 同じ部屋に寝ていて、はいそうですかと、おとなしく眠りにつけるワケが無い。 ――もちろん、アレンだってまだそんなことをするつもりはない。しかし、本能と理性は別物。 彼は悶々としていた。

「眠れないのだったら、私、アイスコーヒーを入れてくるわね。一緒に飲みましょう。」
うん、とアレンが返事をした。

ひたすら喉が渇ききっていたアレンは、シオンの作った“飲み物”を一気に飲み干した。 シオンの意図も知らずに。
「…眠れないって言ったって、眠らないわけにいかないでしょう…むにゃむにゃ…。」
コテン。アレンはテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
うふふ、とシオンは笑った。“とにかくアレンに眠ってもらわないと困る”シオンは、 コーヒーを入れるついでに即効性の睡眠薬を盛っていたのだ。
「これで邪魔は入らないわね。」シオンは、珍しく着けてきたメガネを外した。

目を凝らしてあたりを見渡す。生まれつき備わったその能力で。
『……シオン……。』彼女に呼びかける声がする
やっぱり、と彼女は思った。
「――兄さん? 兄さんなの?」
生前の姿のままのジンがいた。気に入って着ていた黒い着流しの。
『シオン。』
「兄さん!」
兄妹の感動的な再会――

――なんてぇもんじゃぁない!

『シオンっ!! 夜中にこんな所に来て――。一体、何を考えているんですかっ!!』
「に、兄さんこそ、こんなところで何をしているのよっっ!」
……こんなとこって……ここはアレンの部屋。 この鈍感兄妹2人に、こんなとこ呼ばわれされる筋合いはないと思うが。
『アレン君に限って間違いは起きないと思う。が、仮にもアレン君だって男だ。 “部屋に泊まる”という結果、何が起きるか分からないお前でもあるまい!』
アレン君に限って間違いはないって、あんた。それ言ったら可哀想だよ、アレン君が。
「そんなこと兄さんに関係ないじゃない! 私だって分かっているわよ。もう経験してるもの。」
『…経験している? ……アレン君……じゃないとすれば、相手の名前を言いなさい!』ジンの目つきがさらに険しくなる。
言いなさいと言われて、言えるかよっ!
「とにかく、私のことは放っといて頂戴!」
『お前はいつだってそれだ。こんなに心配しているというのに……。少しは人の気持ちも考えたらどうですか?』
「兄さんこそ、一人で分かったようなことばかり言って。兄さんに私の気持ちが分かるって言うの?」
シオン、あのエンディングムービーでジンに涙したのは嘘なのか? その物言い。

「私の気持ちを分かってくれたのは、やっぱりケビン先輩だけよ。」
『お前は今でもあのテスタメントのことを――。それに、お前の相手というのは――。』本気で怒り出すジン。

この2人のやりとりは、あと1時間ほど続く――。さすがに付き合いきれないからあとは省略(笑)。
…ところで、シオン、ここに何しに来たんだっけ?

散々言いたい放題言って、2人が息を切らせた頃。
「――(はぁはぁ)――兄さん、どうして――?」シオンは聞いた。
『――(ぜぇぜぇ)――ここにいるかって? あなたが心配だからですよ。シオン。』
「でも、どうやって?」
『私にもよく分からない。あの時確かに絶命したと思ったのだが、 きっとケイオス君達の力に巻き込まれたのでしょう。気が付いたらここにいた、 というわけです。』
「絶命って……。」よくよく見ると、ジンの姿は何かおかしい。 黒い着流しはともかく、頭には…黒い三角?
「兄さん、その格好は?」
『以前、古書で見た姿をまねしてみただけですよ。ぴったりでしょう?』パチンと指をならすと、 なぜか本が出てくる。
『このページですよ。』
シオンが見てみると、その本は全体的に薄汚れている。ふっと息を吹きかけ、拭いてみると 埃が飛んで本来の色が出てきた。太古の言葉で“お化け”と説明書きが書いてある。
「……兄さん、これ黒じゃなく白なんじゃ?」
『ああ、そうでしたか。それでは白に…。』
「兄さん止めて。白じゃ目立っちゃうわよ。そうでなくても体積デカイのに。」
……んじゃなくて!

「それより兄さん。アレンにとりついてどうする気なの?」
そうそう、それそれ。
『あのときは“よろしく頼む”と言ったけれど、私の目から見ても、彼はまだまだ頼りになりそうにもないし、 お前のことがどうにも心配でね。 それに、“水先案内人”がいた方がいいでしょう。目的地の場所も分からないのだから。』
「やっぱり、兄さんの仕業なの?」
『そう。それに――。』
「それに?」
『激情に流されやすいお前のことだ。その場の勢いでつい間違いを起こす、ということもある。 私の目の黒いうちには、お前たちにそんなことはさせるつもりはない。』
“目の黒いうちに”って、ジンさん、あんた瞳はたしか緑色じゃないかい? それに、 あんた既に死んでるんじゃ…?

シオンが下を向いて身体を震わせる。
「――兄さん、“また”、私の恋を邪魔する気なのね――。」







アレンは、ジンに認められる日が来るのか?
シオンは、アレンと「夜明けのコーヒー」を一緒に飲む日が来るのか?
はたして、2人の運命は?




話は続――かないかも知れない……。

あとがき:
4年ぶり(苦笑)に創作を書き上げました。スッキリ。
やはり、ジンと言えば兄妹ゲンカ。あれ? 違う?
7章、8章、9章と「BGM代わり」にメモリーコードの音声をヘッドフォンで 聞きながら文章を書いていたら、こんなん出来ました(笑)。
ゼノサーガ エピソード3を私なりに解釈すると、こんな感じです。 なんだか、キンキン声のやたらと響く兄弟げんかのゲーム(違)。
それで、あのエンディング、意地悪くアレンジしてみました(笑)。 おそらく、「ケイオスくんたちの力に巻き込まれて」というのは、 実際のところ、狙っているのではないかと思いますわ。 だって、あの場所で「死んでいる」のジンだけだもの。 他の連中は、1万年後でも平気で生きていそうだし(笑)。 わざわざ「あの場所」に行かせているくらいですしね。 設定上「普通の人間」てジンだけでしたもの。 どうにもならなくて、こんなんしたのでは?? とか思っちゃいますね。
だから、一応涙しつつ、心の中でヘラヘラ…。 けれども、一緒に見ていた娘はショックを受けていました、ジン好きだったので。 おいおい、○○ちゃん、ジンの年齢知ってる? あなたのパパとあまり違わないんだよ(笑)。